戦国太平記 〜大きな楠の木の下で〜

流星群

伊勢国統一編

第1話 異世界帰りの男

「一体どういう事だ?!」

 一面真っ白な空間に男の怒号が響き渡る。


『説明するから、落ち着いて!』

 続いて、興奮した男を落ち着かせようと女性の声が響く。


「話が違うじゃないか?!魔王討伐に成功したら、元の世界の管理者に話して日本の指定した時間軸に戻してくれる約束だろう?!」


 騒いでいる男の名は大楠正顕おおくすまさあき、現代日本から異世界へ【異世界トラック】の権能により次元を超えて吹っ飛ばされ、いわゆる異世界転移をさせられてしまった男である。


 当然そのイレギュラーな現象は世界を管理している管理者、俗に言う神の知る所にはなっており、その対応した神が目の前の女神アルテナである。


『私も約束通り戻してあげたいんだけど、現地の管理者である彼女の許可が降りないから無理なのよ!』


 アルテナのその言葉に隣に座っていた和装の女性が反応する。


『何を言ってるのですか?!彼のように神でもないのに神格を有し、亜神や2級神を超え1級神に匹敵する人間…いいえ、既に人間かどうかすら疑わしいですけど、そんな人を未成熟な文明世界ならともかく、一定以上に発展した世界に戻せる訳ありません!影響を与える範囲が広すぎます!単純な情報調整だけでも、どれだけのリソースと神聖力を消費するか、下手すると私とあなたの持つ全リソースと神聖力でも足りませんよ!』


 彼女は地球…いや、地球の所属する第3宇宙世界を担当する女神で、日本ではお馴染みの天照大御神アマテラスオオミカミである。


 彼女の言うことも尤もな事で、リソースの使用量は対象の存在力や影響力などの大きさに比例して多くなり、正顕の様に神格を有しLVも1,000を超える者を対象とした場合、ハッキリ言って現実的では無い。


 しかし、この件に関して正顕にも妥協出来ない理由があるのだ。正顕には日本に残して来た当時14歳になる妹がおり、両親が事故で亡くなって以降、身寄りのない二人は手を取り合って暮らして来た。そう言った事情もあり、異世界転移した当時は絶望もしたが、アルテナと出会い取引をし、その約束を支えとして10年も頑張って来たのだ。今更無理などと言う話は聞けるはずも無い。


「それはそちらの都合だ。俺は約束を守って魔王を倒した。リソースが足りないのなら、他の管理者の力を借りてでも約束を守ってくれ。神聖力にしても同様だ。この件に関して俺が妥協する事はない!それとも神様ってのは、人間との約束なんて守らなくて良いと思ってるのか?」


『『ぐっ…』』


 正顕の言葉に2柱の女神は言葉を失う。正顕の言葉は正論であり、非は約束を守れないこちら側にあるのだから。それでも非常に困難な問題であり、ハッキリ言って甘く見積もっていたアルテナが悪いと言える。


「大体、魔王を倒せる時点でどの程度の強さになるのか、その場合のリソースの消費はどうか?など予想できて然るべきだろう?なのに、今更こんな話をされて納得しろってのは無理があるだろう?」


『流石に、魔王を瞬殺するほど強くなるとは思わないわよ!その上、神格まで…あり得ないわよ!』


(ハァ〜…、確かに彼の成長力と素養を甘く見ていたアルテナが悪い訳だけど…、実際、未来予知の権能を持ってない限り予見出来ないわよね。かと言って、現状の私とアルテナの全リソースを使用して、2人分の神聖力を使用したとしても、彼を戻すのは難しいわ。戻すだけなら半分もあれば何とかなりそうだけど、情報調整に莫大なリソースが必要になる。大体、全リソースを使ったら、どちらの世界も世界の運営自体が出来なくなって、下手したら滅んでしまうわ…。彼の妹さんを呼んで説得してって…ん?…ちょっと待って…)


 しばらく無言で考えていた天照が、正顕に対して問いかける。


『ねぇ、あなたが戻りたい理由って、妹さんの件があるからなのよね?彼女の件が片づけば、別に戻る年代なんていつでも良いのかしら?』


「えっ?うーん…まぁ、俺としては由那ゆなの件がなければ、戻る事に固執はしてないだろうな。実際、現世に良い思い出もあまり無いし…でも、どうして突然そんなことを?」


 正顕の疑問に天照は先程思いついた内容を語り始めた。天照の語る内容は俺が元の時間軸に戻れない事を除けば、一考の余地があると正顕は判断した。現時点での正顕にとっての優先順位は由那の件が最上位であり、それ以外は正直どうでも良かったのだ。


 それから正顕とアルテナ、アマテラスの3者は話し合いを行い、転生条件を次の様な内容に決定した。


 ①妹(由那)に関しては、正顕に関しての記憶を消した上で、彼女の人生が幸せで豊かな物になる様に全力でサポートする。(※一定期間ごとに正顕へ様子を報告する)

 ②リソース削減の為、正顕は転生体として、中世以前の希望の時代、希望の場所に転生する。(※影響の高いスキルは封印し、LVは100分の1に抑制する、封印し続ける事は常時消費するリソースの量が多すぎる為、影響が出ない様に徐々に解除して行く)

 ③転生体の身体は2柱の女神によって準備する。(※転生先の父母の遺伝子を使用して準備)

 ④転生先でも手持ちのインベントリとアイテムは使用可能にすること。(折角入手したお宝なので、放棄するなんて勿体ない)

 ⑤封印したスキルの代わりに可能な限りの危険の少ない便利なスキルを準備する事。

 ⑥全世界人類の美的感覚を現代的に調整し、文献や伝承との齟齬が無いように、見た目も調整する。(正顕の感性を調整するよりリソース消費が少ない為)

 ⑦日本全土を統一し、可能な限り日本の領土を拡大をする。(※天照曰く、日本縁ゆかりの神として、未来の日本の状況を少しでも良くしたいらしい)


「一応話としては纏まったが、アルテナ様には貸1ですからね?天寿を全うしたら、また会いましょう。天照様は巻き込まれた形になりましたが、これから宜しくお願いします。」


 正顕の言葉に女神アルテナはあからさまに嫌な顔を浮かべた。その様子を苦笑いを浮かべながら眺めていた天照ではあるが、転生の準備が整った事もあり、真面目な顔をして正顕へ告げる。


『ハイハイ、そこ迄になさい。準備が整ったので転生の儀を始めるわね。これからあなたの希望した1545年(天文14年)の楠木家、対外的には川俣かわまた家かしら…まあその嫡男(歴史上存在しない)として転生してもらうけれど、調整の影響が多少は出る可能性があるわ。転生後に新しい身体と魂が馴染むまで5年程度は掛かるから、暫くは大人しくしてなさい。馴染むまでは本来の能力が発揮できないから、攻撃されたら普通に死にますからね。それから調整の影響が出ても、生家が簡単に滅亡しないように、川俣氏の勢力を若干強化しておきましたから大丈夫でしょう。それでも何があるか分からないし、油断だけはしない様にね。』


 母親か姉の様な言い回しの天照の言に苦笑いを浮かべながらも、正顕は力強く頷くのであった。


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