第14話 白き救世主
どこから話しましょうか?
あー、その辺はテレビとか、他のコラボ動画とかでも言ってるので……じゃあもっと、昔の話からします。
僕は2歳から7歳までの事を、よく覚えています。
周りのやつに聞いても、そんな小さい時の事なんか覚えてるわけない、と笑われてしまいますが、自分にとってはすごく大切な思い出だったので。
この頃の思い出がなければ、生きていけなかったと思います。
1番はじめの思い出は、父さんと同じアパートの友達トモキくんと、そのお父さんと一緒に木登りをしている所です。
夏真っ盛りで、すごく暑くてだらだら汗をかいていたこと、蝉の声がうるさかったことを鮮明に覚えてます。
すごい低い木だったので、3歳だったトモキくんは、少しだけ手伝ってもらうだけで木のくぼみに足をかけて登ることが出来たんだけど、僕はまだ2歳だったから、父さんに抱っこしてもらって、横に座らせてもらったんです。
トモキくんは「やったぞー!いちばんの!!ばん!ばんっ!」とか意味不明なことを叫んで立ち上がったから怒られてて、僕はそれがなんか面白くてケラケラ笑ってしまったって思い出なんです。
まだまだいっぱいあるけど、次に好きな思い出は、3歳の頃に両親と妹と動物園に行った事かな。
妹はまだ0歳だったから、ベビーカーに座り殆どの時間を寝てすごしてました。
真っ白いほっぺを赤くしてて、手があつあつで小さくて。
でも、狼の展示の前を通りかかると起きたんです。母に抱かれると、目を見開いて檻を一生懸命指さしてて。
なぜか狼が檻の中をめいいっぱい使って、大きくぐるぐる周っていて、それがうちの家族の前にくるたびに、妹は変な笑顔でニコォっと笑うんです。
色んな動物を見たのも楽しかったけど、それが1番面白くて、帰りに何度もその話をしたから両親はうんざりしてしまって、最終的に怒られてしまいました。
楽しい話なのになんで?って思ったとこまでが、セットで覚えています。
それから7歳までは、とにかく楽しかった思い出ばっかりでした。
本当は嫌な思い出もあるんだろうけど、都合よく忘れてしまったのもあるかな。
こういう話しは無限とまではいかないけど、一晩は話せるくらいにはいっぱいあります。
ホッカイドーにいる時は、誰も僕の見た目を気にすることはなかったんです、だって同じような家庭環境の子はいっぱいいて、珍しいことじゃなかったですから。
だから僕も両親が言う「可愛い」を鵜呑みにして、自分が可愛いんだと思い込んでいました。
?……ありがとうございます。
大丈夫です、今はそれなりに自信がもてるようになってます、応援してくださる方のおかげです。
話しは戻りますが、ホッカイドーには色んなルナリア人とチュア人がいて、家庭を築いたり、友人関係を築いたりしていました。
最初に話した小さい頃に友達だったトモキくんは、父親がウノ人で母親がルナリア人とウノ人のハーフ。
1番血が複雑だったのは、幼稚園の時の友達のスヴャトスラフくんでした。
彼の母は元ロシアって国出身のチュア人とウノ人のハーフで、父はルナリア人とウノ人のハーフ。
都市部ではあり得ないですよね?
今でも、きっとホッカイドーには同じような人がいっぱいいますよ。
……はい、僕をみて喜んでくれてると嬉しいです。
もう何度もテレビで言ってるから視聴者の方も知ってると思うけど、僕の母はルナリア人で父は元ロシアって国のチュア人なんです。
肌が他のルナリア人よりかなり白いのと、高身長、顔立ちの8割は父譲り、髪がホワイトブロンドなのと目が3つあること、背中の体毛は母譲りかな?
あ!酒が強いのは父譲りですね。散々まわりのやつらに呑まされてます。
それで、この見た目で純粋なルナリア人しかいない、ナガオカキョにきたらどうなると思われますか?
ルナリア人って、優しいって言うじゃないですか?
特にウノ国にいるルナリア人はおもてなしの心があって優しくて、財布を落としても何も取られずに返ってくるって母星では有名だと思うけど、どこにだって嫌な奴はいるし、少数派が孤独なのはどこの星も同じ……皆自分と違うものは怖いんですよね。
自分の常識にないもの、自分の正解と違うものは受け入れることが難しいんです、だから排除するか無視してしまうのが楽なんだと思います。
自分自身にはそういう部分がないかというとそうじゃない、でも差別された側だから、同じような弱者や傷ついている人には、気づいて共感してあげれるようにはなってるかなと思います。
……はい、そうです。
漫画家だった父が賞をとったのを機に、こっちに来ました。
編集部とのやり取りや、アシスタントの人に来てもらったり、そういうのはナガオカキョに来ないと難しかったんです。うちの父は作業の殆どが手描きだったので。
こっちに来て混血だっていうのを隠さないと行けなないって分かってからは、母以外の家族全員、なるべく外を出る時は帽子やマスクをかぶって過ごしました。
それでも純チュア人の父はやはりこちらで生きるのが難しく、だんだん疲れていった様子でした。コンビニで悲鳴をあげられたりしましたから。
僕自身は小学校でイジメを受けていました。
肌が白く、顔に毛がほとんど生えてなかったら、ハダカシロネズミなんて言われたり、机を廊下に出される、持ち物を捨てられるなんて日常茶飯事でした。
そんな時に家で火事が起こりました、深夜2時頃だったと思います。
2階にいたんですが、煙に気づいた時にはもう遅くて、すぐに床やドアから火が上がってきました。
両親は僕達をタオルケットで巻いて、父が土台になって母が上に乗って……寝室の小さな窓からカーポート?って言うんですかね、あの屋根に投げたんです。
一か八かですよね、でも運よく僕も妹も打撲だけで助かりました。
カーポートの柱からゆっくり降りて、少し離れた所で2人でずっと窓を見てたんです。
いつ母と、父が出てくるんだろうって。
これは一時の事故で、また日常に戻るだろう思ってて……妹と燃えて黒くなっていく家をボーっと見てました。
でもいつまで待っても出て来なかった。
あの窓の大きさだったら、細身だった母ならどうにか色んな物を台にしたりして出てこれたのかも知れないけど、間に合わなかったのかな?
中で起きたことは分からないけど、その日から妹と2人になりました……。
……実を言うと、今でも同じくらいの大きさの窓が開いてるのが怖いんです。
ふふっ、普通は火の方が怖くなりますよね。でも僕にとっては、両親が出てこなかった窓のほうが恐怖でした、まだ夢に出ますよ。
事故の後、どうしていいか分からない僕達兄妹を助けてくれたのは警察の方でしたが、検死を担当する方に「お父さんってちょっと変だよね?なんか知ってる?」って言われたことも一生忘れられないかな。
酷い話でしょう、でも本当の事です。
その後はどうにか孤児院に入れましたが、そこでもイジメがありました。
その時妹はまだ5歳だったから毎日泣いてて、でも自分も孤児院と小学校でのイジメで精一杯で、あまり何もしてやれなくて、できたのは寝る時に2人抱き合って眠ることだけでした。
孤児院の職員の人もあたりが強くて、ご飯の時間にパスタを取り分けてくれる時も、僕達兄妹の時だけ手が触れ合わないように軽く投げてよこされました。
1人だけ、チュア人のキリスト教っていう宗教の考え方が好きな人がいて、博愛主義だからって優しくしてくれました。
妹はその人がお母さんがわりみたいな所があって、出勤する日をすごく楽しみにしてましたね。
そんな日が続いて、僕は中学3年生で身長が急に180cmまで伸び、力も強くなりました。
そうしたらイジメは、徐々に止んだんです。
それで僕はもう弱くないんだって分かって、わざと威圧するような雰囲気を出すようになりました、不良って言われるような、年上の高校生の子達とつるんで施設の門限も守らないようになって……完全に問題児ですよね。
でも、やっと居場所が出来て、認めてくれる人がいて本っ当に嬉しかった。
皆家庭に問題があったり、コンプレックスがある奴らばっかりだったけど、お互いの個性を受け入れあってたんです。
万引きしたり壁にスプレーで落書きしたり、仲間に認め続けて欲しくて、色々して補導もめっちゃされましたね。
そういう事をしてる間も、小学校での妹へのイジメは続いていたみたいなんですが、僕の前では明るく振る舞うんですよね。
一人前にお母さんみたいに「また?この先どうするつもりなの!」って説教してきたり。
それが中学校に行ってから徐々に変わってきたんです、口数が減ってきたり、暗い表情が増えたり。
妹は僕より父に似てるんです、目は2つしかないし、ルナリア人らしい体毛もかなり少ないから、気味悪がられたり。
孤児院に登校を強制されるんで、イジメを避けることが難しかった。
あとでイジメの範囲を超えることがあったと聞きました、池に顔を突っ込まれる。身体の見えない所を殴られたり火傷させられたり……ここでは言えないこともあったと。
心配して聞くんですけど「大丈夫」としか言わない。
僕は僕で、仲間と集まる時間が多くて気づいてあげれなかった。
そして………………中学1年の二学期が終わる前に……孤児院の部屋で、首を吊って亡くなりました。
置き手紙には……「お兄ちゃん大好き」…………とだけ書いてありました…………。
ごめんなさい……妹の事になると涙腺が……弱くなってしまって…………。
本当に後悔しています……もっと……もっとそばにいてやれたら……孤児院の人に強く言って、登校しなくていいように言えたら……変わってたのかなって。
部屋のゴミ箱には、書き直した手紙がいっぱいぐしゃぐしゃになって入ってて、そこにはイジメが辛いことも、少し書いてありました、お母さんに似たかったとかも……そこも僕に気を使ってたんですよ……心配させないように、手紙を書き換えてたんです。
孤児院で簡単な葬儀をしてくれたんですけど、僕はもう……耐えられなくなってしまって……孤児院を、逃げるようにやめました。
高校1年生になる年齢になってたので、住む場所があれば可能だったんです。
友達が高校を出て、就職してたのでそこに転がり込みました。
本当は、妹を死に追いやった奴らが許せなかったので、復讐しようと思ってました。
見つからずに殺すには?とか、どうすれば同じ痛みを与えられるか?とかいっぱい考えてたんですけど、その時に仲間が一緒に沢山泣いてくれたんです。
辛かった……な……って…………すいません……また泣いてしまって……。
辛かったな、でもディミトリには、そんな事してほしくないって……イジメをするような奴になって欲しくないって……。
夜中出歩いて親を心配させるし、落書きやらで何度も補導されてるような奴らだけど……本当にいい奴らで……。
だから……復讐はしませんでした。
そこから去年、あの事件があるまでは、バイトして仲間とたむろして、お酒が飲める年になったらバーにばっかり入り浸って、仲間と呑むっていう毎日でしたね。
この見た目で就職はできなかったから、バイトさせてもらえるだけありがたかったです。
昼間は外を歩けなくて、夜が自分の時間の全てでした。
だから今、こんな昼間にこんなに何人もの人に囲まれて、インタビューを受けてるのが不思議です。
1年前の自分が見たらびっくりですね「そんなとこにいて、そんな小洒落たスーツなんか着てたら危ないぞ」って心配するかも知れない。
あの時に、友達がインタビューしてる横に立ってて、本当に良かった。
それがあの事件に繋がって、混血の人達が堂々と外を歩ける手伝いをすることができたし、ウノ人との架け橋になる事もできた。
混血児や、ウノ人への差別反対運動もどんどん広がっています。
正直、この世から差別やイジメがなくなることはないとは思うけど、少なくとも僕の妹のように、自ら命をたつ子供がいない世の中になるように、これからも活動を続けるつもりです。
あ、そうですね、僕のパートナーも事件があったからこそ出逢えた人ですね。
自分がお付き合いできるなんて思ってなかったので、本当に僕が1番びっくりしてますよ!
あの事件のドラマ?最後まで見ましたけど、めちゃくちゃ恥ずかしかったです!
だって僕の役めっちゃ格好いい芸人さんだったし、だいぶ話変わってるし……あんな格好いいセリフ実際言ってませんからね!
ふふっ、あまりない経験をさせて貰えて、感謝しています。
あ、以上ですか?ありがとうございます、また機会があれば、宜しくお願いします。
すいません、この後パートナーとの約束がありまして。ええ、また。
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