第6話 こんにちは運命
来歌は自室のベッドでスマホと睨めっこをしていた。
あれから数日、どうすればいいかネットで調べたりしていたが、その自分の行動に違和感を感じていた。
元々10代の頃は人並みに占いが好きだったり、おまじないのようなものはしてきたが、20代後半からはスピリチュアルに価するものはほとんど信じなくなった。
神社にいって願掛けをしたり、お守りを買うような、一般的なウノ人がするような事を行うのみだ。
しかし今はただただ自分の身体が、細胞が叫ぶほうへ進みたいと願っていた。
バカだと言われて、大切な友達に止められても、自分の運命を信じたかった。
スマホの待ち受けにした彼の写真を幾度となく眺める。
会いたい。すごく会いたい。
必ず会える運命だから焦る必要はないと頭の中の誰かが言っていても、気持ちが落ち着かなかった。
どうしても【方法】を探してしまう。
絶対こうじゃないのに……と落ち込んでしまう。高鳴ったり落ちたり来歌の心は忙しかった。
もう一度彼の写真を眺め胸に強く抱いた。冷たいスマホの感触が薄い部屋着越しに伝わってくる。
スマホの中にこのままスポっと入ってしまえれば会えるのにと妄想が始まった。
彼の目前に自分が現れ、すぐにお互い運命を感じ気持ちが繋がる……指と指が触れ合い……目と目が合い熱く潤む。
……気分良く考えていたのに、ふとリビングからテレビの音が聞こえてきた。
短い廊下を歩くと更に音が大きく聞こえてくる。
リビングのローテーブル前の座椅子では、父が大きな口を開けて眠りこけていた。眠ってしまった父の手がリモコンに当たり音量が大きくなってしまったみたいだった。
「もぅ」
そう言いながらリモコンを拾うと、テレビに向ける。
テレビ画面には銀色の食器に乗った美味しそうなカレーと巨大なナンが映っていた。
カレーとラーメンに目がない来歌は釘付けになる。どこにあるのだろうと見ていると大阪からは遥か遠く福岡のお店だった。
「なんだ……美味しそうだったのに」
地方民からすると都会の飲食店特集は、何を見せられているのだろう感が強い。たまになら「美味しそう」「旅行の時に」と思えるが、その番組が毎回そうだとチャンネルも変えてしまう。
残念な気持ちになったとはいえ、来歌の口の中はカレーへの期待でいっぱいになってしまった。
自分でスパイスからカレーを作る事もあるが、生憎材料を切らしている。
ポンッとお気に入りのスパイスカレー屋が頭に浮かんだ。
「家にいても駄目だし外行こうかな、これも縁!行こ!」
と心で自分に言い聞かせると、すぐに外出の準備をした。
玄関を開けると、外は初夏の爽やかな暑さで、風が心地よく、もう気分が良くなった。
今日の来歌の装いは、細い紺と白のボーダー柄のオフショルダーワンピースに白い女性らしいスニーカーとキャップといった感じだ。
ゴールドのフープピアスも着けていて「デートに行くの?」と言われてしまいそうな感じだが来歌にとっては普段着である。可愛くない服は持っていない。
来歌の命であるメイクは今日はナチュラルに品良くをテーマに、ベージュとコーラルカラーでまとめられている。
お目当ての店は家から歩いて15分ほどかかる。日傘を差しながら歩いていると少し頭がスッキリしてきて「やっぱり出かけて良かった」と思えた。
じんわり汗をかいてきた頃、お店の看板が見えてきた。
分厚い木の板でできた、恐らく手作りであろう立て看板に白いペンキで【マサラスーリヤ】と店名が書かれている。
何度も来ているのでそれを見ただけでワクワクとしてしまう。
看板の裏側に人が二人、入口を防ぐように立っている。
1人は男性で、タンクトップにベージュのハーフパンツ、ボロボロのスニーカー、天然なのかおしゃれなのかモジャモジャの髪を後でひっつめていて鼻下にはヒゲがあり、細めの筋肉質な身体で軽く日焼けしている。
もう1人は女性で、自分より少し世代が上に見えた。
ダイダイ染めのカラフルなTシャツに、幅広のコットンパンツを履き、髪は日焼けして少し茶色くなったストレートの黒髪をひっつめている。
二人とも大きなリュックを背負っていた。
来歌は直感で旅行帰りっぽいなと思った。
二人は店に入りたそうにする来歌を見つけると、ニカッと同じ顔で笑った。
顔をみるに100%姉弟だし、悪い人ではなさそうだと感じたので話かけた。
「入るか迷われてるんですか?」
すると弟と思しき方が、笑顔をしまいぎょっとした顔でこちらを凝視したので、来歌は軽く戸惑ってしまった。
姉の方は軽やかに答える。
「そうなんです!美味しいですか?」
来歌は気持ちを切り替えて先程の二人の笑顔に負けないくらいの笑顔で答える。
「めーーーーっっちゃ美味しいですよ!」
「えー!じゃあここで食べよー、いいやんね?」
姉は早口で弟に尋ねると答えを聞かずにすぐに扉を開けて入っていった。
「聞いた意味ないやん」
小さく呟く弟も楽しそうだ。
この出会いがゆっくりと運命を変えていくとは、この時の来歌は思ってもいなかった。
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