第3話 伝説のプレイヤー【ヒガン】→オレ

「くらえ!」


 オレは、親玉スライムに斬り掛かった。

 

「ぶっ!」


 スライムが、体当たりでぶつかってくる。


 原付にかすったような痛みが、走った。


 さすがに、ダメージは受けるか。

 それでも、微々たるものだ。


「やるじゃん。だが、これまでだ!」


 何度も、切りつけた。


「来たぜ。【ヘビー・アタック】!」


 ランダムとはいえ、クリティカルが出る。


 攻撃を繰り出す度に、ヘビーアタックの確率も上がった。

 

 スライムを愚直に、ショートソードでぶった斬る。



 フュージョンワールドの特徴は、特定の職業で固定しないところだ。

 

 戦士といっても、魔法が一切使えないわけじゃない。魔法を使う割合が、減る程度である。


【ヒール】は一応使えるが、薬草より回復量が低い程度だ。


 また、戦い方によって、前衛職と後衛職をスイッチできる。

 物理が通じない相手なら、魔法使いにスイッチして対処するのだ。

 戦士系で進めても、魔法使い用のアイテムがゴミにならないし、「仲間がいないと詰む」という心配がない。


 ソロで戦うのが基本だが、どのようなビルドも可能である。

 魔法戦士を目指すことも、可能だ。

 盗賊スキルを取りまくって、特化してもいい。


 実際、仲間がいる人は、プレイヤーごとに役割分担をしていた。


 けど、ハクスラはアイテムの取り合いになるため、ソロが基本だと思っている。


 なにより、ゲームの特徴として、ファイトスタイルを「アイテム依存」にするか、「ステータス依存にするか」を決められるのだ。



「ドロップ品は、【アイスシード】か。これはいいものを拾ったぞ」


 アイスシードを、剣の柄に取り付けた。これで、【魔法剣:氷属性】が使えるようになった。


 試しに、ザコスライムに【アイスアロー】を撃ってみる。

【アイスアロー】は、あらかじめ【アイスシード】に込められていた。なので、いちいち覚える必要はない。


 氷の矢に貫かれて、スライムは消滅した。


 このように、魔力のこもった宝石を【シード】という。

 シードは、アイテムを強化するときに使うのだ。

 ステータス方面を「戦士寄り」にして、「魔法使い」はシード付きアイテムに依存するというファイトスタイルも可能である。


 今後はドロップアイテムによって、どちらに寄せるかを決めていく。


 特にシードは、一つ一つが魔法の属性を持っている。

 攻撃・防御系の『炎』、『氷』、『風』、『土』、『雷』。回復・補助効果をもたらす『光』などだ。

 

「くう、ゲームで得た経験値を引き継げたらなあ」


 オレ、割と上位だと思っていたんだけど。


「まあ、前のプレイで、素早さに振りすぎたってのもあるんだよな」



 かつてオレは、上位プレイヤーの【ヒガン】として君臨していた。

 君臨って言っても、ランキング万年七位のプレイヤーだったけど。


【ヒガン】はゲーム内においても、それなりに一目置かれていた。主にNPCから。

 他のプレイヤーがドロップ品ばかりを集めている間、オレはやたらとストーリーをこなしていた。

 依頼者がいたら、ノーと言えない性格だったのである。いくらNPCとはいえ、相手に頼られるのはうれしいじゃん?

 商家の娘を助けたり、ドラゴンを退治したりと、大活躍したっけ。

 まあ、そのせいでドロップ品はゴミだったけど。

 誰よりもストーリーは、進んでいた気がする。


「ああ、ヒガンのデータなんて、現実には存在しないよなあ」


 なんせ、世界にダンジョンができた途端に、「サ終です」の通知だもん。

 一〇年間愛で続けたオレのデータは、もろくも消え去った。

 

「世界がダンジョン化しなかったら、ゲームだけ遊んで寝てればよかったんだよなあ……」


 とはいえ、一からプレイするのも悪くない。

 ゲームってのは、そういうもんだろ。

「また一から遊べるドン」なんて、ゲーマーからしたらご褒美でしかない。


 なにか重要なことが起きていて、対処するためのレベルが足らん、というのは困るけど。


 悔やんでも仕方ないよな。適当に遊ぶぜ。


 モンスターを、次々と倒す。


 二足歩行キノコや、ドローンくらいデカいトンボなどを倒す。


 知力が上がる【フォースリング】や、筋力がアップするインナー【力帯】をゲット。


 宝箱も開けてみたが、やはりポーションやお金ばかり。


 お金はありがたいが、ポーションばかりもらってもなあ。換金アイテム程度にしかならない。


 ヒガンで遊んでいるときは、やばかった。装備依存のキャラを避けたくて、武術系でビルドを組んだのである。

 武器依存のゲームだってのに、得意技は『回し蹴り』ときたもんだ。風魔法特化で、仕様を完全に無視した戦闘スタイルだった。


 疑似忍者プレイをやってみて、無双もいいところだったな。装備品も使わずに売りまくって、巨万の富を得たっけ。


 今考えると、スキル依存すぎた。多少、もったいなかった気がする。


 なので今回は、装備に多少依存するプレイを選んでみた。


 せっかく、装備が落ちるダンジョンに来たんだ。活用しないと、もったいないじゃん?


 多少不自由しても、ダンジョンを満喫させてもらおう。


 のんびりボチボチ、レベルを上げて装備を更新していきますよ、っと。

 

 やはり、モンスターからのドロップが一番……?


「ん?」


 なんか、男の子のような女の子が、魔物に追われているのだが?

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