第4話 魔法使いの男装少女、ロニ
セミロング金髪に赤い目のボーイッシュ少女が、こっちに走ってくる。
赤いフードを掛けているが、短い髪の毛はウィッグ……つまりヅラだとすぐにわかった。走っていた拍子で、わずかにズレている。
デニムのオーバーオールに、運動靴スタイルだ。
タスキがけしているポーチは、小型の【アイテムボックス】である。
男装しているつもりだろうが、めっちゃかわいすぎ。
あれでは、女の子だと公言しているようなものだ。
というか、あんな美貌をちょっとの返送で隠せると思っていたとは。元の素材が、よすぎるんだろうな。
相手はウルフと、巨大クモか。
少女は応戦しているが、後ろを向きながらでは狙いが定まらない。仕方なく、範囲爆裂攻撃魔法で戦っている。
大技すぎるな。こんなヤツらに浴びせる魔法じゃない。
「んだよ、しつこい!」
振り返りながら、ついてくる魔物の群れに悪態をつく。
言葉遣いは、あまりお上品ではない。
しかし、着ている服や装備品からして、なかなか高級なのでは?
お嬢さんの装備なら、あれだけの魔物なんて問題ないと思うけど?
「なにかを、小脇に抱えているな。かばっているんだな?」
そのせいで、うまく戦えないのか。
おっと、品定めしている場合じゃない!
多勢に無勢。これは、オレの出番だな。
「よけろ! 今、助ける!」
少女が、オレの合図で横へ飛び去る。
「【アイスアロー】、乱れ打ち!」
オレは覚えたての【アイスアロー】で、魔物を数匹蹴散らした。
大型スライム撃退からの魔物討伐で、レベルが四に上がる。
ステータスに、ポイントを振っているヒマはない。
ウルフが、両手持ちの大剣である、【ブロードソード】を落とした。
ならば!
「【回転斬り】!」
即席でスキルを取って、対処する。
両手剣を装備して、コマのように回転して、ザコをズタズタにしていった。
スキルを持っていなくても、そういったマネゴトはできる。しかし、目を回してしまう。スキルを持っていれば三半規管が鍛えられ、激しくグルグル回っても正常な視界を確保できるのだ。
いいねいいね。ドロップアイテム、最高。
さっきできんかったステータス振りも、やっておくか。魔力にすべて、ぶち込みだ。魔力は多いほうがいい。
『魔力自動回復』の機能がついた装備が手に入るまでは、メインは魔力に振る。
「【皮の胸当て】に【ウルフ皮のすね当て】、後は【サンダーシード】ね。上等上等」
防具品が結構更新できたので、体力や力に振らなくてもいいだろう。
【ウルフ皮のすね当て】は、『素早さ+三』のボーナス付きである。
「ラッキー。レアじゃーん」
【フュージョン・ワールド】のアイテムには、等級がある。
ノーマル、レア、エピック、レジェンダリと、階級が高いほど強い。
ここは現実世界だが、ちゃんとゲームと同じ恩恵もあるようだ。
「ケガはないか?」
少女に駆け寄って、周囲を警戒する。
「特には……」
自分の心配より、かばっているものを心配している様子だ。
汗がひどい。魔力切れも起こしている。そりゃあ、ザコ相手に範囲魔法なんて、枯渇するっての。
「これでも食ってろ」
オレは持て余していた【バリバリポーション】を、少女に渡す。
「アンタも」
少女は、妖精にもポーションを食べさせる。
「悪い。気が利かなかった」
オレはもう一本、ポーションキャンディを渡す。
少女たちがポーションを食っている間、オレもメシにする。
もう昼間だし、戦闘の疲れもあった。
献立は缶詰と、コンビニで買ったおにぎりだ。
焼き鳥の缶を開けて、おにぎりといっしょに食う。
オレの姿を、少女と妖精が食い入るように見ていた。腹が減っているというよりは、珍しいものを見ている。好奇心の眼差しだ。
仕方ないな。
「余ってるから、いくらでも食えよ」
少し多めに買っておいて、よかったぜ。
予備で持ってきた、ペットボトルのお茶ごと、少女たちに渡す。
「ありがとう」
少女はおにぎりを妖精とシェアし合う。
「ごちそうさま。ありがとう、おっさん」
「おっさんじゃない。オレは『ミツル』だ。お前さんは?」
「……『ロニ』」
「本名は、名乗れないんだな?」
ロニはうなずく。
うーむ。ワケアリ少女ですかい。
しかもこの子、異世界の住人じゃんか。
異世界の住人は、手の甲に埋めたQRコードが違う。
冒険者と会話には、QRコードが関連している。
このコードには、翻訳機能があるのだ。
実際の翻訳機のように、デバイスを使っても会話は可能である。しかし端末をいちいち介さなければならない。
手間を省くため、体内にコードを刻む必要があるのだ。
一度コードを刻んでしまえば、脳に翻訳機能が定着する。途中でコードが消えても、腕を切り落とされても、脳を媒介として異世界言語が浸透するのだ。
「じゃあ、ロニ。ここは危険だ。早くおうちに帰りな」
「でも、この子が」
「見せてくれ」
ロニが大事に抱えているのは、妖精だった。
「お前さんが捕まえたわけじゃないな」
「違うよ。助けたんだ」
「なにをやったんだよ、お前さん?」
「この子を、ここのダンジョンにある家に……」
「一人でか?」
まったく、ムチャをしやがって。
「この子、悪いやつに捕まっててさ、ある人にお願いしようかって」
「誰だよ?」
「伝説の冒険者、ヒガン」
「ブウウウウウウウウッ!」
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