第10話 揺れる心、五月の観察
芽依との温かい時間を過ごした後、吾郎の心は一時的に落ち着きを取り戻していた。芽依の優しさは、吾郎の罪悪感に満ちた心を包み込み、安らぎを与えてくれた。しかし、その安堵も束の間、吾郎の心には、結月、皐月、そして芽依との秘密の関係がもたらす、拭いきれない罪悪感が渦巻いていた。
そんな吾郎の様子を、物静かな五月が、常に冷静な目で観察していた。吾郎は気づいていなかったが、五月は吾郎と芽依、そして吾郎と皐月の間に流れる、かすかな空気の変化に気づいていた。それは、家族としての親密さとは違う、熱を帯びた、特別な空気だった。
五月は、吾郎が何か大きな秘密を抱えていることを、論理的に推測していた。吾郎の視線の動き、会話の僅かな間、そして、それぞれの姉妹との接し方の違い。五月は、それらの情報を統合し、吾郎の心を解読しようとしていた。
ある日の放課後、吾郎は気分転換のため、誰もいない図書館へと足を運んだ。静かな書架の間を歩いていると、吾郎は五月の姿を見つけた。彼女は、窓際の席に座り、分厚い哲学書を読んでいた。
「五月姉さん、こんなところで何してるんだ?」
吾郎が声をかけると、五月は静かに本から顔を上げた。
「吾郎こそ。野球の練習は?」
五月はそう言いながらも、吾郎の隣の席を指差した。吾郎は、五月の隣に座り、五月が読んでいた本のタイトルを覗き込んだ。
「難しい本、読んでるんだな」
「そうかしら。この本には、人の心の本質が書かれているわ。吾郎にも、いつか読んでほしいわ」
五月はそう言うと、吾郎の顔をじっと見つめた。その瞳は、吾郎の心を、まるで本のページをめくるかのように読み解こうとしているようだった。
五月は、吾郎に直接的な問いかけはしなかった。代わりに、五月は吾郎が抱える葛藤を暗示するような言葉を投げかけた。
「この本の主人公は、自分の行動がもたらす結果について、まだ深く考えていないみたいだね」
五月は、そう言いながら、吾郎の顔を覗き込む。吾郎は、五月の言葉が、自分に向けられていることを悟った。
「…どういう意味だよ?」
吾郎がそう尋ねると、五月は静かに微笑んだ。
「さあ。この主人公は、自分の欲望を満たすことだけに夢中で、その結果、大切なものを失ってしまうかもしれないのに、それに気づいていないようね」
五月の言葉は、吾郎の心に深く突き刺さった。吾郎は、結月や皐月、芽依との関係を思い出し、胸が締め付けられるような痛みを感じた。
「でも…この主人公は、自分の孤独を埋めるために、そうするしかなかったのかもしれない」
吾郎がそう言うと、五月の瞳が揺れた。五月は、吾郎が自分と同じように、深い孤独を抱えていることを理解した。
二人の間に、静かな時間が流れる。それは、言葉を交わさなくても、互いの心が通じ合っているような、特別な時間だった。
「吾郎…」
五月の声が、吾郎の耳元で聞こえる。その声は、吾郎の心を揺さぶった。
「…私に、あなたの孤独を、話してくれない?」
その言葉は、吾郎の心を深く温めた。吾郎は、五月が自分のことを理解してくれていることを感じ、心が満たされていくのを感じた。
図書館の閉館を知らせるアナウンスが響く。吾郎は、五月と一緒に図書館を出た。帰り道、吾郎は五月の手をそっと握った。五月は、驚いたように吾郎の手を握り返した。その手は、温かく、そして柔らかかった。
吾郎は、五月を抱きしめ、彼女の髪に唇を寄せた。五月は、吾郎のキスに小さく震えた。
「吾郎…」
五月の声が、吾郎の耳元で響く。その声は、吾郎の理性を完全に吹き飛ばした。吾郎は、五月の身体を愛撫し、彼女の快感を高めていく。
この夜、吾郎は、知的な五月との、新たな禁忌の愛へと踏み出した。それは、吾郎の心を、さらに深く、複雑に揺さぶることになる。
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