第4話:勃発! ヨーロッパ戦線(前)
1936年6月26日、フォッケウルフ航空研究所実験室にて。
「確り捉まっていてくださいよ、まさかぶっつけ本番で試験運用することになるなんて思わなかったんでね!」
「おう、安心しろ。そんなことより、帰還命令を受けてまだ詳しい作戦内容を聞いていない。俺たちゃ何をすれば良いんだ?」
「さすがに、「ヨーロッパ一危険な男」と言えどもそれは気になりますか」
「当たり前だろ」
「……これ、作戦要綱です。要点だけかいつまんで説明すると、
「おう、いつも通りにやりゃいいんだろ? 任せとけ」
「それなんですが……」
「あ?」
「……なるほどねえ」
「できますか?」
「ははッ、できるかどうかじゃねぇ、やるんだよ」
「……その答えを聞きとう御座いました! ……着陸地点はちょうどマジノ要塞線の薄い、
「おう」
「効果準備は宜しいですな?」
「大丈夫だな?」
『Jawohl,Herr Komandan!!』
「それじゃ、行ってくるか!」
ヘリより降下したスコルツェニー隊は一見して目立つように見えたが、既にそれ自体が彼らの作戦任務であった。派手な軍事作戦をアルデンヌで行うことにより、フランス軍を誘い出してその隙にラインラントへ国防軍を進駐させ、さらに可能ならばエルザス・ロートリンゲン地区の解放までを企図した大規模な軍事作戦であった。「日蝕作戦」と称されたその諸作戦のうち、第一段階である「月演習」は遂に発動した!
そして、まんまとフランス軍の最精鋭部隊を釣り出したスコルツェニーはさらにもう一軍団を誘引、アルデンヌの森に集結したフランス軍を待ち受けていたものとは……。
「な、なんだあれは!?」
「ぐわああっ!!」
「何が起こった」
1936-6/26、その日はフランス軍建軍以来史上最悪の事件として名高い、「アルデンヌ空襲」の日だった。……まあ尤も、フランス軍というものは存在がこの後消えてなくなるのだが……。
「総司令官! 大変です!
前線の第一軍集団がドイツ軍の空襲に遭って潰滅状態です!」
「……バカを言うな、いくら何でも連中にそんな戦力があるわけ……」
「総司令官! 大変です!
アルデンヌの空襲の隙を衝いてドイツ軍がラインラントを初めとしたエルザス・ロートリンゲン地区の解放を宣言致しました!」
「言わんこっちゃない!」
「総司令官! 大変です!」
「今度は何だ!」
「ベネルクス三国連合より連絡、我等ドイツ軍と交戦を開始、迅速なる援軍を要請する、とのこと!」
「ええいっ、どいつもこいつも!」
「「「如何為さいましょう、総司令官!」」」
「……ド・ゴールを呼べ!」
「……よろしいので?」
「儂はド・ゴールを呼べと言ったぞ」
「は……ははっ!!」
「お呼びでしょうか、ガムラン総司令官」
「……仕事をする気は無いか」
「は、と、仰いますと」
「総司令官としての采配を預ける、ドイツ軍を見事撃退した暁には後任を任せても良い」
「は……ははっ!!」
「……ガムラン総司令官、よろしいので?」
「ああ、ド・ゴールには生け贄になって貰う」
「……ああ、なるほど」
「こんな攻勢を止められるのならば、そいつは最早人間ではないよ」
「……確かに」
ガムランの眼前に広がる、地図に書かれたたくさんのチョーク後が物語るはドイツ軍は第一次世界大戦の敵討ちを行う気だったということで、更に言えばドイツ軍の装備がいかに貧弱と言えども、そしてフランス軍の装備がいかに豪勢といえども、士気が完全に違っていた。無論、士気だけで戦局が覆る訳ではないが、フランス軍が張り子の虎に過ぎないことを知っているのは、彼と敵の総司令官しか存在しなかった。
……後世、ド・ゴールを無駄死にさせた、とか梅毒で脳をやられていたのではないか、とか詰られるガムランであったが、彼は基本的に理性の人であり、現状のフランス軍ではドイツ軍に到底抗し得ないことを深く理解していた。……故に、韜晦し躻のふりをしていたのだ。
そして、彼は判子の用意をし始めた。降伏文書に調印する判子だ。……そして、起きないから「奇蹟」というのだと言うことを、彼は深く理解することになる。
ド・ゴール戦死。その一方はパリ市民には衝撃として映ったが、ガムランらフランス軍総司令部には残当案件として映った。そして、ドイツ軍がアルデンヌの森を抜けフランス国境を突破し、パリを目指し進撃し始めた頃のことである……。
「王政復古を行う!?」
「折角、王族を処刑したのにか!」
「ええ、フランス国民を戦火にさらすよりはマシです」
「……なるほど、そういうことか」
「はい」
なんと、フランスはこの土壇場になって王政復古を宣言、彼らは度し難いことに王族を処刑して貰うことで自分たちは避難しようとしたのだ。だが……。
「踏み潰せ」
その行為は、却ってドイツ軍の逆鱗に触れる行為であった。1936年7月4日をもって、パリという都市の政治的生命は終了した。残ったのは、パリという名の地名とおびただしい元建築物であった瓦礫、そしてそれによって発生した無数の死骸だけであった。
「おーい、みんな、大ニュースだ!」
「どうした、隊長が本国に帰ったこととなにか関係があるのか」
「ああ、本国で戦争が始まった!」
『はあっ!?』
「出頭命令は出てないが、帰還の準備だけはした方が良いと思う!」
「とはいえ、命令は出てないんだろ?」
「第一、帰還するとして誰がこの店継ぐんだ? 周囲にもそれを説明するべきだぜ」
「それは……」
「…………」
「…………」
「……ま、私達の出番よね」
「首の危難を救って貰った恩もあるし、行ってきなさいな」
「おねぇ、ブッキングなら私に任せてよ!」
「あ、貴女何また首外してんのよ! また掠われたらどうすんの!」
「だってー、ただでさえ胸で肩こるのに寝るとき以外なんて首でも外してないとやってらんないわよー」
「あ、貴女ねえ……!!」
「あー、じゃあ私も外していいかな?」
「ダメに決まってんでしょ!」
「えー」
「とはいえ、出頭命令が出ていない以上、勝手に持ち場を離れるのも拙いんじゃね?」
「それなんだけど……」
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