第3話:九龍要塞線での日常 mit 首取れる系妖女三姉妹(後)
「はわわっ、はわわわわっ」
「あわわっ、あわわわわっ」
「お、どうした。夜間警備中に何か見つけたか」
「も、モンスターが出た!」
「はぁ?」
「お、俺も見た!生首が空を飛んでいた!」
「……はぁ?」
「お、どしたどした、お化けでも出て眠れないんでちゅか~?」
「ほ、本当に出た!震旦顔のモンスターが出た!」
「……はぁ?」
「えーと、話を整理すると、だ。……震旦者の面構えをした生首の形をしたモンスターが現れたってか」
((こくこく))
「……お前ね、サボりたいからってそれは下手すぎるぞ」
「本当なんだって! 本当に生首だった!」
「……お前ね……おい、エーリヒ達も何か言ってやれ」
「……私、聞いたことあります。何でも、落頭民とかっていって、震旦の少数部族の中にモンスターじみた外見の人物がいるって……」
「……なんだと?」
「お姉、連中の居所を突き止めたわ。どうやらこの雀荘みたい」
「へぇぇ、じゃあ善は急げね。突入~っ!」
「あっ、ちょっと待ってよー……!」
「なんだ、今日はもう店じま……い……」
「すみませーん、私達の体知りませんかー?」
「隠すとためにならないわよ」
「ね? イイコトしてあげるから返してよ★」
「お、お、お、」
「お?」
「おうわーーーっ!?」
「!!」
「下で何かあったみたいだな、見てくる」
「私も行くわ!」
「Schwester・Erichはひとまず脱出路の確保! Bruder・Erichはひとまず階段を外す準備をして!」
「しかしっ……!!」
「HansとBerndなら遅れは取らないわ! それよりもRichardは増援を頼んで!」
「ああ、わかった!」
「寄るなっ、来るな化け物っ!!」
「ちょっとー、人の体誘拐しといてその言い草はないんじゃないかしらぁ?」
「お前らの体なんか知らん! そんなことより生首が浮いてしゃべってる時点で化け物確定なんだよ!」
「あらぁ? あくまで白を切る気ぃ?」
「姉さん、隠し通路見つけた。こっちなんじゃ無いかな」
「よくやったわ! ……さぁて、隠し部屋に私達の体があった場合、どうなるかわかってんでしょうね?」
「知るかっ、そんなもんっ!!」
「おぉーねぇーえぇー」
「どうだった?何人分あった?」
「それが……」
「?」
「……なによ、これ」
「なんか、一緒の顔した人間が水槽に浮かんでるよ?」
「こっちには脳みそだけが浮いてるわね、趣味悪ぅ……」
「……これを見られた以上は仕方ないな」
「あら、ようやく体を返す気になった?」
「悪いが、死んで貰うっ!!」
「ハンスー、ゲオルグはどんな感じー?」
「拙い……」
「?」
「あの部屋を部外者に見られた、口封じで殺すだけならいいが、下手をしたら……」
「え゛っ」
「ああもうっ、ちょっと趣味の悪い部屋を見られたからって殺すことないじゃない!」
「そ、そうよ! 話せばわかるわよ!」
「うるさいっ、この部屋を見られた以上、口封じで殺さねばならんのだ!!」
「おぉーねぇーえぇー、やっちゃったー!」
「何をよ!?」
「この辺、似たような雀荘いっぱいあるじゃない?
……別の区画だったー」
「「え゛っ」」
「おいっ、あの部屋を見られたってのは本当か!」
「ああ、本当だ!だからこいつらを殺さねばならん!」
「拙い、ここで戦って万一のことがあったらどうする!」
「しかしっ……!!」
「……えぇと、この部屋は一体何なわけ?」
「「部外者に言えるかっ!!」」
「えぇー……」
「というより、死ぬのが怖くないのか! 東洋人という連中は!」
「そりゃ、死ぬのは怖いわよ。怖いけど、体を失った以上死ぬ可能性が飛躍的に高くなるんだから、一々こんなところで止まってられないの!」
「……銃で撃ったら、流石に化け物といえど死ぬはずだ!」
「……銃って、これのことかしら」
「……まさか、ゾンビ!?」
「ちょっ、キョンシーと一緒にするなんて失礼しちゃうわね! うちらは少し頑丈なだけで普通の人間なんだってば!」
「普通の人間が生首のまま生きてるわけねーだろーがー!!」
「……あれ、何」
「ラボの中だから銃を使えないのはわかるが、なんか言い争いの論点がずれてないかあいつら」
「……ちょっと僕、トランキライザー取ってきます」
「……何の役に立つんだよトランキライザーとか……」
「燻せば、それなりに広範囲にばらまけるでしょう!」
「いいか、普通の人間ってのは生首のまま生きてたり、ましてや飛んだり跳ねたりなんてできねえんだよ!」
「そういう貴方達だって、兄弟にしちゃ似た顔ばっかりじゃないの!」
「うるせー!俺たちゃ一卵性双生児なんだよー!」
「嘘おっしゃい! 普通の双子三つ子ならまだしも、九名全員一緒の顔なんてあり得ないでしょうがっ!!」
「おい!」
「うわっ!?」
「ひゃあっ!!」
「……弟が失礼致しました、フロイライン。とはいえ、この部屋を見られた以上、めったやたらと動き回られて秘密をばらまかれては困るのです。どうやら、貴女方も何やらお困りの様子、ここは一つ協定を組みませんか?」
「おい! 東洋人相手に協定だと!?」
「オメーは黙ってろ、ベルント。……そうですね、協定を結ぶだけでは足りないというのならば、暫く此所に住みませんか? 給金は一応、約束致しますよ」
「…………」
「ど、どうする、お姉……」
「……今ここで言い争っていても仕方ないわ、文字通り枕を並べて死ぬのは御免よ」
「……まあ、そうなっちゃうよねえ……。あたしの名は慶。こっちが妹の美で、あっちが靄姉。どう? 名乗ったんだから、そっちも名乗ってくれるかしら」
「……いいだろう。俺の名はベルント・フォン・アルニム。ここにいる全員が、一応兄弟姉妹だ」
「……私の名はヴォルフガング・ツェンカーと申します、フロイライン。」
「……他の人は追々自己紹介するように言っておくね。僕はリヒャルト・バイツェン。こう見えて、九人の中ではエライ方だよ」
「……ま、いいわ。で、ここって何なのよ」
「……どうする、ヴォルフガング、言っちゃう?」
「……フロイライン方、協定を結ぶに当たって一つ確約して欲しいことがあります。貴女方が生首のまま宙を舞えるように、我々にも秘密が御座いまして……」
「……ああ、そういうことね。わかったわ、こんな歳で死ぬわけにもいかないし、ご厄介になろうかしら」
「それは有り難い! ……とはいえ、協定を結ぶにしてもその体|(?)じゃサインが書けませんよね…」
「あら? そうでもないのよ?」
「わわっ、髪の毛が動いた!?」
「……一応、私達は髪の毛を動かせるよう進化したのよ。だって、いつまでも体を隠されたら即お陀仏なんて洒落にならないもの」
「……普通、髪の毛に神経が通っていない以上、動かすのは難しいものなんですよ……?」
「……なんともやれやれ」
「これでいいかしら?」
「……いいでしょう。しかし、生首が生きたまま飛び回るわ、その生首が髪の毛を手のように使って文字を書くわ……。なんというか、オカルトですねえ……」
フューラーやアーネンエルベが見たらきっと喜ぶでしょうね。
「貴方達クローン人間がそれを言うかしら」
「……何の話です?」
「あのね、あまり私達を……というか、東洋人を甘く見ないでね。クローン人間が既に実用化されているのは知ってるわ。皆、倫理上がどうのこうの言い張って認めたがらないけどね」
「……はは……」
「ま、そういうわけで。名前はもう名乗ったと思うけど、私達は……」
「落頭民でしたっけ」
「あら、ご存じ?なら話は早いわ。……別に一晩や二晩身体に戻らなかったからって死にゃしないけどね、さすがに一週間や二週間も生首で飛び回れるほど私達は頑丈じゃ無いの。……なんだけど、いつものように飛び回って帰ってきたら身体が誘拐されててね。このままじゃ生死に関わり兼ねないから調査中、ってわけ」
「……ああ、そういうことですか。ならば、安心してください。我々も協力致しますよ」
「本当っ!?」
「ええ、但し交換条件が御座います」
「……何かしら」
「身元が安定したら、少し検査させてください。大丈夫です、侵襲性の高い検査はしませんから」
「……ああ、そういうことね。……どうする?」
「しょうが無いんじゃ無い? 協力者がいた方がいいのは明白よ」
「おぉーねぇーえぇー、おなかすいたー」
「……食べ物、食べられるんですか?」
「そりゃ、私達だって人間だもの。おなかすくわよ」
『(……人間?)』
「まあ、そういうわけで。……交渉は成立したから、早速探すの手伝ってちょうだいな。……正直、もって三日かもしれない。一番早くに抜けた慶なんかは、二日もつかどうか……」
「……いいでしょう、わかりました。とはいえ、何か捜査するための特徴はありますか?」
「そうねえ……」
「……雀荘なのはわかってるって言われましてもねえ……」
「フロイライン、この近くに雀荘がどれほどあるかご存じで……って、地元民ならば当然知ってますよね……?」
「それなんだけど、概ね二日前だからそこまで遠くには行っていないはずなのよ」
「……畏まりました。して、首と体が呼び合うとか、そういう……」
「あるわけないでしょ。あったとしたら真っ先に頼りにしてるわよ」
「……ですよねえ……」
「なんか、犯人の特徴とかはないんですか?」
「……さあねえ……。おねぇ、なんか見てなかった?」
「あんたは少しは自分で考えなさいよ……。……実はアンタたちを襲ったのも、似た服を着ていたからなのよ」
「似た服?」
「ええ、なんというか、軍服だったわね。それも、黒い軍服で、背格好までは覚えてないんだけど、大柄だったとは思うわ」
「……わかりました、こちらとしても疑いを晴らす必要がございますからね、何とかしてみましょう」
「本当?」
「ええ、我々はイギリス人ではありませんから」
「マックス、本気なのかい?」
「一応、本気だ。同盟国の人間を助けることは、おそらく本国の意にも添うだろう」
「それは、そうかもしれないけどさ……」
「それに、一応案はあるさ」
「どんな?」
「この国の雀荘には独自のネットワークがあってね、私的カジノだったとしてもそのギルドに入る義務がある以上、そこから捜索をかけてみる」
「……あったっけ、そんなの」
「……レーベレヒトなら詳しいんじゃないかな。それよりも、早く彼女たちの肉体が饅頭の材料にならないように手を回さないと」
「そ、そうだね、わかった」
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