第1章 イルベン刀バブル編 第4話 イルベン刀市場へ

『デイトレードセンター』と書かれた看板が立つ会館に俺とヴィオラは到着した。ここの大ホールでイルベン刀の権利書のせりが行われているそうだ。さっそく俺達は入ることとした。


大ホール前に立っている警備員が俺に声をかける。

「おや。すでに今日のイルベン刀のせりは始まっていますよ。急いで入ってください。損しないように。」

「ああ。ここでイルベン刀の権利書のせりをしているんだな。ところで、なぜ本物のイルベン刀ではなく、権利書の取り引きをしているんだ?」

「いやぁ。あなたは初めてせりに来られる方?ひょっとして、その身なりなのにわざわざ田舎から来られた感じですか?」

「まあ、ちょっと様子見で来た感じで…」

「そうですか?」

警備員は俺を訝しげに見ている。迂闊だったな。

「まあ、いいでしょう。イルベン刀の産地、イルベン国は、平和主義の国でして、武器の輸出入を禁止しているんですよ。それが、あと半年もしないうちに、武器輸出を解禁するだとか何とかで、一定数のイルベン刀については、我がネテートランドに輸出することにしたそうですよ。そんで、今の内から入ってくるイルベン刀のリストがどっからか発表されて、これから輸入されるイルベン刀を予約しようとした連中がこうして権利書を作ったんだそうです。そして何よりも、イルベン刀の切れ味は他の刀では及ばない、最高品質でして、是非とも買いたいって人が後を絶たないものですから、どんどん高騰していってるんですよ。」

「そうか。そういうことなら、最高のイルベン刀を今日探してみるか。」

「では、ご健闘を祈ります。」


会場内

入ってみると、身なりがいい者とそうでない者が2対8程度か。身なりのいい司会者に紹介され、今ちょうどぼろい服をまとった男が壇上に上がり、権利書を見せびらかしている。

「では、出品者様、商品と希望売却額の提示をどうぞ。」

「皆さん、私からは、『灘の蔵彦』をご提供します。こちら1000万サラリーから。」

「1010!」

「1013!」

「1019!」

「1040!」

「1080!」

・・・

「1080!1080万サラリーでいいですか?では、1080万サラリーで落札いたします!落札者は壇上へ。」

こんな流れか。司会者に呼ばれた『灘の蔵彦』を落札した奴はくたびれた様子で、田舎から来ている雰囲気であった。

「いやぁ。田舎の自宅の土地建物、それから農地を担保にしてお金を借りてき甲斐がありましたよ。イルベン刀が手に入るなんて。」

有頂天でそのようなことを言うなど、本当に迂闊な奴だ。かもにされるだろうな。こいつは。かく言う俺も警備員に迂闊な質問をしたことを反省しないといけないが。

そのようなことを考えていると、ヴィオラが少しにらみつけた感じで

「おい、アツム。いつになったらイルベン刀の権利書買うんだよ。」

なんて言ってきやがった。

「今日は様子見だ。イルベン刀の権利書を買うべきか、正直、今の段階では判断がつかない。」

「アツム。僕を騙したのか。」

「騙すつもりはねぇが、誤解させたのは謝る。ただ、イルベン刀の権利書を買うべきか、場合によっては、権利書は買わない方がいいかもしれん。それでもお前のお姉さん取り返してやるから。詳しい話は後にしてくれ。」

今日のせりが終わるまでの間、イルベン刀の権利書は希望売却額から大体2%から10%程度の高騰を見せた。ただ、懸念点として、貧民のような身なりの者が権利書を買う傾向があるような感じだったな。ヴィオラには申し訳ないが、あばら屋に住む子供が事情をよく知らずイルベン刀の権利書のことを話したりすることも鑑みれば、イルベン刀の権利書を買うのは危険かもしれない、そのような不安も感じつつあるところだな。

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