第1章 イルベン刀バブル編 第2話 いざ、イルベン刀市場へ
「おい、ガキ。嘗めてんのか。こんな偽物に騙されねーぞ。」
ぐへっ。ハンチングをかぶって、ヨレヨレのカッターシャツを着た短パン小僧が殴られてやがる。小僧に声をかけておくか。
「おい、大丈夫か。」
「そこのお前、イルベン刀の権利書、買わねーか。」
「さっき殴られていただろ。どうせ偽物だろ。」
「ちっ。知ってやがったが。買わねー奴には用はねーよ。帰ってくれ。」
「オルグ!とりあえず、贓物渡して騙そうとしたことは誤ってもらおうか。」
「うぐっ。ぐすん。ごめんなさい。助けてくれ。」
まあ、「オルグ」が効いたのか。ちょうどいい。この小僧の話を聞いてやるか。ネテートランドの事情についても頭に入れておいたほうがいいしな。
「何泣いてんだ。とりあえず、なぜ偽のイルベン刀の権利書を売りつけようとしたのか、話せ。」
「お前、誰なんだ。」
「ああ、悪い。俺はアツムだ。」
「僕はヴィオラ。僕にはねえねえがいるんだが、ねえねえが色街の店に連れていかれたんだ。ねえねえを取り戻すために、身請けのための金を稼ぎたいんだ。乞食、日雇いバイトなんでもしてきたが、それでもこれっぽっちの金しか稼げず、身請けする金が全然足りないんだ。そんな時、イルベン刀の権利書ってやつが今高くなっているって聞いたもんで、紙買って、イルベン刀の権利書を書いて売りつけようとしたけど、誰も買ってくれなくて。」
「分かった。ねえねえってのはお前のお姉さんか。」
「そうだ。ねえねえはスカーレットっていうんだ。チュプリハウスっていう店に僕を置いて連れて行かれて、よくわからねえけど、大人のおもちゃとかでいやらしいことされているって噂だそうで、僕がねえねえを下衆な大人から助けたいんだ。」
「そういうことか。チュプリハウスにお姉さんが連れて行かれたのはどういうきっかけだったんだ?」
「ねえねえと僕が住んでいたアパートの家賃が払えなくなって、大家にねえねえが突き出されたんだ。ねえねえがチュプリハウスに行く代わりに、アパートの家賃が2年間無料になってんだ。」
「そうか。それで、イルベン刀の権利書を売り払って、その金でお姉さんを身請けするってことか。金で人の自由を奪う輩、気に入らねえな。それなら、俺が本物のイルベン刀の権利書、手に入れてやるよ。」
「手に入れてくれるのか。それでねえねえを取り戻せるのか。」
「そのためには、まず、お前の家に案内してくれ。それと、持ち金すべて俺に託してくれ。」
「分かった。僕の家にも案内するし、今ある金も全部やるよ。」
初対面の人物を家にあげて、金まで差し出すってのは、やはり「オルグ」が効いてるってことか。
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