第10話
春の夕暮れが校舎の窓から差し込み、教室を柔らかく染めていた。
長く伸びた影が黒板に映り、その中に悠真の姿があった。
放課後の教室は、普段の賑わいを失い、静寂に包まれている。
そんな中、不意に響いた小さな声が悠真の胸を激しく揺さぶった。
「悠真くん、話せる?」
振り返ると、そこには中原咲が立っていた。
彼女の瞳は赤く潤み、頬は涙で濡れていた。
「ごめん……我慢できなかった」
言葉を詰まらせながらも、咲はゆっくりと歩み寄る。
その表情は、幼馴染の彼に向けられた切実な訴えそのものだった。
悠真の胸は締めつけられ、何と言葉を返していいのかわからなかった。
「どうして、何も言ってくれなかったの?
あの日、あの本屋の前で……私、何だったの?」
その問いは、まるで悠真の心を貫く刃のようだった。
「ごめん、咲……でも俺は――」
言葉を続けようとしたその瞬間、教室の入り口から別の声が響いた。
「悠真くん、私も話がある」
振り返ると、そこには白井紅葉が立っていた。
彼女の瞳は揺れていた。
「私、勘違いしてた。
悠真くんが咲ちゃんを避けてると思ってたけど、違ったんだね。
でも、私の勘違いのせいで、悠真くんが辛い思いをしていたのなら……」
悠真は混乱しながらも、その言葉が胸に深く刺さった。
「もう、全部話すよ」
悠真の声は震えていた。
咲と紅葉、二人がじっと見つめる中で、彼は静かに語り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます