第10話

春の夕暮れが校舎の窓から差し込み、教室を柔らかく染めていた。

長く伸びた影が黒板に映り、その中に悠真の姿があった。

放課後の教室は、普段の賑わいを失い、静寂に包まれている。

そんな中、不意に響いた小さな声が悠真の胸を激しく揺さぶった。


「悠真くん、話せる?」


振り返ると、そこには中原咲が立っていた。

彼女の瞳は赤く潤み、頬は涙で濡れていた。


「ごめん……我慢できなかった」


言葉を詰まらせながらも、咲はゆっくりと歩み寄る。

その表情は、幼馴染の彼に向けられた切実な訴えそのものだった。


悠真の胸は締めつけられ、何と言葉を返していいのかわからなかった。


「どうして、何も言ってくれなかったの?

あの日、あの本屋の前で……私、何だったの?」


その問いは、まるで悠真の心を貫く刃のようだった。


「ごめん、咲……でも俺は――」


言葉を続けようとしたその瞬間、教室の入り口から別の声が響いた。


「悠真くん、私も話がある」


振り返ると、そこには白井紅葉が立っていた。

彼女の瞳は揺れていた。


「私、勘違いしてた。

悠真くんが咲ちゃんを避けてると思ってたけど、違ったんだね。

でも、私の勘違いのせいで、悠真くんが辛い思いをしていたのなら……」


悠真は混乱しながらも、その言葉が胸に深く刺さった。


「もう、全部話すよ」


悠真の声は震えていた。

咲と紅葉、二人がじっと見つめる中で、彼は静かに語り始めた。

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