Episode 17 :【迫る、選択の時】
「
「……はっ?」
突然の提案に、音葉は目を大きく見開き、
「ここからそう遠くない場所に、俺が誰よりも信頼できる人物……その人が生活する、地下シェルター施設がある。
そこでなら、《ヒューマネスト》に
申し訳ないが、俺は君達のチームには、入ることができない。どうしても、やらなければいけないことがあるから。
だが、君達をその場所まで、責任を持って送り届けることはできる。
それが俺なりの、君達に対する誠意だ」
そう。俺が先程、電話をかけた相手は――
俺は先生に、〝
先生は、その相談に、
……同時に、「今朝の感動的な別れの、
ともあれ、地下シェルター施設まで、〝TEAM・CATS〟のメンバーを送り届ける
マサルとアラタも、「ネコ姉がいいって言ったら、そうする」と、渋々ながらも了承してくれた。
後は、音葉の返事待ちなのだが……彼女は、口を開けたまま、ポカーンと呆然してしまっている。
……そんなにも、俺の話は、受け入れられないものだったのだろうか。
俺としては、これ以上ないくらいの、最適解とさえ思えたのだが……。
しかし、しばらくすると音葉は、心の底から湧き上がってきたかのようなため息を、はーっと吐き出した。
「……さっきも思ったんだけどさ。アンタ、なんだってそこまで、アタシらに深く肩入れするわけ?
別に嫌ってわけじゃないけどさ……やっぱちょっと、不思議に思うだろ。会ったばかりの、助けるメリットなんてない、アタシ達をよ」
「メリット・デメリットの話じゃない。
成り行き上とはいえ、一度でも出会った人のことを、無下にはできないというのが、人情だろう。
……というのが、さっきまでの理由だった」
「……さっきまでの?」
「ああ。キョウカを通じて、君達の話を聞いた今では、もう一つ理由がある」
静かに深呼吸をし、俺の正直な気持ちを、言葉として伝える準備を整える。
「君は、辛く苦しい思いをしていたあの子達を見捨てられず、自分も危険な目に
俺は、出会ったばかりで、君のことをまだ何も知らないが……その点に関しては、君のことを、心から尊敬している。
そんな君と、君にとって大事なあの子達に、出来ることをしてあげたい。それが、俺の素直な気持ちだ」
「っ――――」
音葉はまたもや、口を開けたまま、硬直してしまった。
しかし、その後の行動は、違った。
彼女は、バッと振り向いたかと思えば、何やら荒立った様子で、髪の毛をわしゃわしゃと
その髪の
……まさか、彼女を怒らせてしまうようなことを、俺は言ってしまったのだろうか。
「っ……! あーっ、もう!
アンタ、やっぱりモテねぇだろ! 自分だけ好き勝手に、言いたいこと言いやがって……!
おまけに、何でそういうこと、フツーに言えっかなぁ……!」
俺に背を向けたまま、何やらブツブツと
「ったく……アンタと出会っちまったなんて、今日は最高の厄日だぜ!」
そして、今まで以上に明るく眩しい笑顔を、ニカッと浮かべた。
その笑顔こそが、何よりの返事だと受け取った俺は――彼女に負けじと、笑みを浮かべる。
それが、決断してくれた彼女の想いに応える、俺なりの方法だった。
「……へー。アンタ、ちゃんと笑えるんだ。不愛想なだけの奴って思ってたよ」
「……心外だな。俺を感情のないロボットみたいに言わないでくれ」
「へへっ、悪い悪い。
でも、アタシは、その笑った顔の方が好きだぜ。
だからもっと笑えよ。なっ、
そう言って音葉は、歯を見せて破顔する。
彼女の笑顔は、見ているだけで、こちらも元気にさせてもらえるものだ。
「……フッ……分かった、善処する」
「……善処って……はーっ、だからアンタは、そういうところを――ゲホッ、ゴホッ……!」
突然、音葉が大きく咳き込み、体勢を大きく崩してしまう。
「!? 音葉、大丈夫か!?」
「あ、ああっ、大丈夫、大丈夫……。
こんな
音葉はそう言うが、明らかに
彼女の
「歩けるか? もし難しいようなら、君をおぶることもできるが……」
「い、いいって、んな恥ずかしいこと!
それよりもさ、先に帰って、他の子達に出かける準備するように、言っておいてくれよ。
アタシもすぐに、アジトに戻るからさ……なっ?」
「……分かった。なら、君はここで、楽な体勢で待っていてくれ。
準備でき次第、他の子達と一緒に、迎えに行く」
「あ、ああ……ゴホッ、了解……」
今の状態の音葉を置いていくのは、心苦しいが……少しでも彼女に
そう決断した俺は、後ろ髪を引かれる気持ちを何とか抑え、彼女と一旦別れることにした。
「ゴホッ、ゲホッ……! あーっ……思った以上に、やばいなこりゃ……。
なんか、身体が……異常に、熱いし……変な幻覚まで、見えてる、しなぁ……」
――……まさか、これが、音葉と交わした、最期の会話だったなんて。
そしてまさか、俺達の心を
この時の俺には、まだ、知る由もなかった……。
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《次回予告》
「……ネコ姉、だいじょうぶ、かな……。前からずっと、せきしてたし……」
「……様子が変だ。
まず俺が行く。みんなは、ここで待機していてくれ」
「フーッ、フーッ……!! ナ、ナツ、ナツミ……!!
ニ、ニゲ、ニゲ……グググゥ……!!」
次回――Episode 18 :【別れ】
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