第3話
ホテルの部屋で家族三人、頭を抱えていた。
「このまま、いつまでもここに泊まっているわけにはいかないじゃない。どうするの」
母は、今日も昨日と同じはずだった日常が予想外の展開になって明らかにイライラしている。
「玻璃彦を
父の口から怪人退治学園という耳慣れないワードが飛び出した。
「お父さん、怪人退治学園って何?」
「怪人退治のプロが集まる全寮制の学校だよ。遺伝子ドーピングで異能が使えるようになった生徒が怪人と戦っているんだ」
「玻璃彦には平和に暮らしてほしいけど、今は怪人退治学園にいるほうが安全かもね……」
母も俺が転校することに賛成のようだ。
怪人の秘密結社ダークムーン支部から逃げ出して狙われているのは俺一人だし、すでに俺は異能が使えるからちょうどいいかもしれない。
「俺、転校するよ。そうすればお父さんとお母さんも家に帰れるし」
早速、転校手続きをすることになった。
数日後、新調した学ランで身を包んだ俺は怪人退治学園の校舎を見上げていた。
「ここが怪人退治学園か……」
ストレートすぎるというか冗談みたいな名前の学校だが、校舎は学校というより軍事基地のような物々しい雰囲気だ。
玄関ホールでバーコード頭のおやじ教師が俺を待っていた。
「初めまして。
「初めまして。これからよろしくお願いします」
「教室はこちらです」
馬場先生に案内されて入った教室には、ダークムーン支部で助けてくれた金髪の少年がいた。
着崩した学ランにセンターパートの長めの金髪で不良っぽい雰囲気だ。
「おー、お前あの時の奴じゃねぇか!ここに転校したのか。俺、
一色は明るく笑って自己紹介をした。
「あの時はありがとう。俺は
大体の事情がわかった。
一色は怪人退治学園の生徒で、怪人に対抗するために遺伝子ドーピングで異能を与えられた。
俺が怪人に拉致されたのが街頭防犯カメラに映っていて、怪人絡みの事件だから警察から出動要請を受けて助けに来てくれたんだ。
「俺の異能は念力だ。念じるだけで物を動かせる」
動かすっていうか、あの時の彼はドアをぶっ潰していた。
「お前は?」
「傷を治す力だよ」
「そうか……それなら武器が必要だな!」
「え!?」
笑顔で武器が必要だとか言われてもどうすればいいかわからない。
「攻撃に使える異能じゃねぇから武器が必要だろ!大丈夫だ、学校がそういうの貸してくれるから」
学校が貸してくれるんだ!?
「お、もうすぐホームルームが始まるぞ」
ホームルームが始まっても、俺が転校生としてみんなに紹介される通常の流れが無かった。
もしかして、殉職が多いから転校生をいちいち紹介なんかしないんじゃ…………。
授業は普通の学校と同じようなものだった。
昼食は食堂で買うことになっていたので失敗が少ないカレーライスにした。
初めての場所で何を食べたらいいのかよくわからない時はとりあえずカレーだ。カレーが食べられないほど超不味いことなんてほとんど無いはずだ。
テーブルを隔てた俺の向かい側に一色が座ってカツ丼を食べている。
一色の隣で、黒髪ぱっつんロングヘアに赤いインナーカラーの、セーラー服を着ていて物凄くオーラがある市松人形タイプの少女が蕎麦を食べている……。
「紹介するよ。こいつは
夜のしじまみたいな名前だ。一色の友人なのだろうか。一色が紹介すると、四十万という名の少女は猫みたいな目でチラッと俺を見た。
「転校生の
「……よろしくお願いします」
四十万は敬語でボソッと返事して、音を立てずに蕎麦を食べている。
「こいつこういう奴なんだよ!」
一色はそう言って明るく笑っているけど、こういう奴って言われてもどういう奴かこっちはまだよくわからないわけで。
「どんな異能を使うんですか?柊さん」
やっぱりいの一番に異能が気になるらしく、四十万が質問してきた。
「傷を治す力だ」
「治癒、ですか……。一色さんはどうせちゃんと説明してないと思いますけど、それなら武器で怪人を殺すことになりますよ」
「え!?殺すのか!?」
「ちゃんと言おうと思ってたよ!」
俺が驚いていると、慌てて一色が口を挟んできた。
「怪人退治学園の生徒ってのはな、相手が怪人の犯罪者なら殺しても正当防衛と見なされるんだ。武器の携行も認められている。特権階級ってわけだ」
ドヤ顔で語る一色。
「怪人と殺し合いをするのが私たちの使命なんです」
無表情で淡々と語る四十万。
酷いことをされたにも関わらず、あのイケメンと戦うの嫌だな……思っている俺。
「怪人と話し合うとか、仲良くするってのは無理なのか?」
「犯罪をしないで人間と共存している怪人なら少しはいますよ。私たちが殺すのは、怪人の犯罪者だけです」
俺の質問に対して四十万はきっぱりと答えた。
「……そうか」
四十万が言う通り、犯罪をしていないのなら怪人でも人間と共存が可能だ。
でも、あの人は犯罪者だからどう考えても無理だよなぁ……。
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