第4話

放課後、夕日でオレンジ色に染まった教室。

「これがあなたの武器です。出動要請が来たらこの生徒専用の携帯端末に連絡が来ます」

馬場先生から仕込み傘と携帯端末を渡された。一見、純和風の番傘の中に刀が仕込まれているようだ。

「こんなの急に渡されても戦う自信がありません」

「そう思って四十万さんに頼んでおきました」

四十万が教室に入ってきた。先生は四十万に何を頼んだんだ?

「じゃあ四十万さん、後はよろしくお願いしますよ」

馬場先生は教室から出て行ってしまった。四十万は無表情で、感情が全く読めない。

「四十万、先生に何か頼まれたのか?」

「柊さんに戦い方を教えるように先生に言われたんです」

「君が?」

「私じゃ嫌ですか?」

「そういうわけじゃないけどさ、意外だった

だけだよ。俺、四十万の異能も知らないし……」

嫌かと聞かれて、俺は慌てて否定した。嫌ではないけど、四十万はどんな異能で、どうやって戦い方を教えるつもりなんだろう。

「異能は後でお見せします。校庭へ行きましょう」


校庭へ行く途中、廊下で俺は四十万に質問してみた。

「異能を得るための遺伝子ドーピングって、適性が無いと異形化するかもしれないんだろ。四十万は怖くなかったのか?」

「怪人退治学園は入学試験で遺伝子検査をして、適性とされる怪人の遺伝子を持つ人間だけが入学して遺伝子ドーピングを受けるんですよ。ですから、うっかり異形化する心配なんかありません」

「そうか、そりゃそうだよな」

「人間でも怪人の遺伝子ドーピングで異能を得られるとか、適性が怪人の遺伝子とかって話は、遺伝子工学と医学のダブルで博士号を取得した天才少年が論文に書いていたことです。柊さん、適性のことなんかよくご存知でしたね。誰かに聞いたんですか?」

潜流を思い出してドキッとした。

「あ、えーと、ネットで読んだような気がするよ。俺は将来、学者になって怪人の研究しようと思っていて色々調べてるんだ。彼を知り己を知れば百戦 あやうからずって言うだろ」

潜流と俺の接点については言わないほうがいいだろう。スパイだと疑われたくないからな。


俺と四十万は芝生のある校庭に辿り着いた。見渡す限りの夕焼け空が見える。

「柊さんはこのへんに立ってください」

四十万に言われた通りの場所に立つと、少し離れた位置に四十万が向かい合わせに立った。

「私の異能はこれです」

四十万の両手の親指の付け根あたりから日本刀の刃のようなものがにょきにょき生えてきた。

「体のどこからでも刃を生やせます」

「すごいな。魔法みたいだ」

俺が驚いていると、四十万は両手から生えた刃を二刀流のように構えた。


「柊さん、戦闘訓練を始めます。抜刀してください」

「えっ!危ないよそんなの。怪我したらどうするんだ」

「もちろん手加減します。それに、柊さんの異能は治癒なんでしょう?ちょっとくらい怪我したって大丈夫じゃないですか」

四十万が突進してくる。俺は咄嗟に仕込み傘の刀を抜いて四十万の刃をギリギリで防いだ。

「ま、待った!」

「待った無しです!怪人は待ってくれませんよ!」

チャンバラが始まってしまった。夕日の校庭に刃と刃がぶつかり合う金属音が鳴り響く。とはいえ、ド素人の俺は防ぐのが精一杯だ。

「攻撃してください!」

防戦一方では叱られてしまうので、なんとか突きを繰り出そうとしたが四十万の刃に刀を弾き飛ばされた。

四十万が俺の喉元に刃を突きつけると、俺の刀は空中をくるくる回転した後に落下。

四十万の右手にぶっ刺さった。


「いったあああああい!!!!!」

「うわーっ!ごめんごめん!!」

俺は大慌てで刀を引っこ抜き、異能で四十万の右手の傷を治した。

四十万は淡い光が傷を包み込んで傷痕が消える様子を不思議そうに眺めた。

「これが柊さんの治癒の異能……すごいです。こんな力があればみんな怪我を気にしないで戦えますね」

「いやいや、無茶されたら困るからな!?治せるからって、怪我していいもんじゃないだろ。今日の訓練はこれで終わりにしよう」

四十万はキョトンとしている。

「え?でも私はまだ……」

「俺がもうヘトヘトなんだ。腹も減ったし」


食堂で夕食を済ませて男子寮のシャワールームでシャワーを浴びて、自室に入った。

落ち着いた雰囲気の個室で大きな窓があり、机とベッドがある。

疲れたから早く寝て、明日に備えよう……。

そう思って布団を被っても、完全に眠るまでにはちょっと時間がかかる。

目を閉じると、最近の色々な出来事が頭に浮かんできた。


新しい学校。

不良っぽいけど、助けてくれた一色はいい奴だ。

四十万は敬語で物静かに見えたけど、すごく強い。

顔が青薔薇の女。異形化した怪人だけど、あいつも元は人間ってことか……。


それから。


藻沼潜流。

怪人の秘密結社・ダークムーンに所属する研究者と思われる謎の少年。

拉致された俺に怪人の遺伝子を注入したマッドサイエンティストみたいな奴。

どんな異能を持っているのかはまだわからないけど、十中八九こいつも怪人。

これから戦う相手、なんだろうけど……。


悪い奴でもイケメンに刃を向けたくない!


話し合いで何とかならないかな?

前線に出て戦うタイプじゃなさそうだったし、すぐに殺し合うことにはならないはず……などと考えているうちに、俺は眠りに落ちていた。

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