第2話
少年は拘束椅子の前に立って俺を見下ろした。
「自己紹介をしておこう。
僕の名前は
藻に沼で苗字、潜ると流れるでモグルって読む名前だよ。君の名前は?」
「俺は
「ここは怪人の秘密結社ダークムーンの支部で、君を人間から怪人に変えるために拉致したんだ」
「人間から怪人に変える……!?そんなことが可能なのか!?」
「可能だよ。これを使えばね」
潜流はワゴンから注射器を取り出した。
「遺伝子ドーピングって聞いたことある?怪人の遺伝子を人間に注入することで異能が使えるようにするのさ。運が悪ければ異形化しちゃうけどね」
今なんかとんでもないことを言われたような……。
「異形化だって!?ってことは、ニュースに出てくる人間離れした姿の怪人は元人間だったのか!」
「そういうことだ。適性があれば人間の姿のまま。適性が無ければ化け物になる。この適性というのが何なのかはわからないけど僕は元々怪人の遺伝子を持っているかどうかだと考えている。怪人と人間は混血している場合があるからね。じゃあ、注射するよ」
「ちょっ、ちょっと待て!!」
異形化する可能性のある注射なんて絶対にされたくない。
「やめろ!やめてくれ!」
俺の腕に潜流が情け容赦もなく注射針を刺した。
「ぎゃああああああああああ!!」
俺は恐怖のあまり気絶した。
目が覚めると別の部屋のベッドの上だった。
手足は自由になっていた。
起き上がって部屋を観察してみると部屋に窓が無いのは同じだけど、さっきの部屋と違ってベッド、テーブル、椅子、本棚など、簡素な家具が置いてあった。
ドアが二つある。
一つ目のドアは鍵がかかっていたが、二つ目のドアは洗面所、風呂、トイレに繋がっていた。
どうやら彼らは俺をここに監禁するつもりらしい。
脱出しなくては!と焦ったけど、脱出が出来そうなところは外に繋がっているであろう鍵のかかったドアしかない。
突然、ガチャガチャと鍵を外す音がした。
振り返ると潜流が食事を乗せたトレイを持って部屋に入ってきた。
「朝食だよ。君は朝まで倒れていた」
「お、お前……!こんなところに俺を閉じ込めてどうするつもりだ!」
潜流がトレイをテーブルに置いた。
「異能が発現するまで様子見さ。異形化はしなくて済んだみたいだね。異形化するならもうとっくにしているはずだから」
異形化しなくて済んだ、という言葉にはちょっと安心した。
しかし、危険な状況であることに変わりない。
今ならドアに鍵はかかっていない。
「逃げようなんて考えないほうがいいよ」
隙を見て逃げらないかと機会を窺っているのが目の動きで潜流にバレてしまった。
一見、細身の少年だがネコ科の猛獣みたいに隙が無い。
戦う手段も無いのに抵抗すれば殺されるかもしれない。
部屋から潜流が出て行くのを手をこまねいて見送るしかなかった。
昨日は夕食も食べていないし腹が減ったけど、こんなところで出された朝食なんて毒が入っているかもしれないし不安の塊である。
しかし空腹には勝てない。
朝食は平凡な味のトーストと目玉焼きと牛乳だった。
食後は歯を磨いたり顔を洗ったりして、監禁されていても生活のルーティンを処理するしかない。
家族が心配して警察に通報しているだろうし救助を待つしかない。
それから三日が過ぎた。
もうこうなったら本でも読んで救助を待とうと思い本棚に手を伸ばした。
本棚には漫画やラノベなんて無く、医学書や哲学書など小難しい本しかない。
仕方ないから哲学書を読んでいると紙で人差し指を切ってしまった。
「いてっ!!」
何をやってるんだ俺は……と残念な気持ちになって傷口を見つめていると、指の傷口の周りが淡く発光している。
「何これ!?」
みるみるうちに傷が塞がり、傷痕さえ残らなかった。
俺に異能が発現した。治癒の異能だ。
でも、そうなるとどうなるんだ?ダークムーンとやらの一員にされてしまうのか?ダークムーンが何をしようとしている組織なのかはよくわからないけど、犯罪はしたくない。
治癒ではこの部屋から脱出することも戦うことも出来ない。
どうしたらいいかと悩んでいると、部屋のドアが突然バキバキ音を立ててグシャッと潰れた。
一体、何が起きたというのか。
呆然としていると、ドアだった塊の向こうに金髪の少年が立っていた。
「お前を助けに来た。説明する暇はねぇ。逃げるぞ」
ドアを潰したのは金髪の少年の異能だろうか。
それなら金髪の少年も怪人ではないのか?なぜ俺を助けてくれるんだ?
聞きたいことは山ほどあったけど、説明する暇が無いなら仕方ない。
俺はわけもわからず少年について行き、建物から出て、街中を走り続けた。
「ここまで来れば大丈夫だろ」
少年が警察に連絡して俺は無事に保護され、自宅に帰されて両親と再会した。
病院にも行ったが、俺の体は健康体で、悪いところは一つも無いらしい。
あの注射と治癒の異能は何だったのか。
俺が怪人の組織に狙われるかもしれないということで、家族みんなでホテルに泊まることになった。
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