第8話

幾夏は静かに話す。

「千世はヨーロッパの方で、はおはおちゃんは中国。千世はドイツ語とフランス語と英語。はおはおちゃんは中国語と英語を話せる」


八音は目を伏せながら。

「はおはおちゃんって、渋谷で会ったことあるよ。ハチ公のあるところの、広場の駅前のあの場所で歌ってたから。でも最近見かけないなって思ってたんだ。どうしたんだろうって」


幾夏は少し陰のある表情で答えた。

「狙われてたんだよ。組閥争い。どこが所有するかみたいな、いつものやつ」


「幾夏のところがお金出して決めたの?」

八音は問いかけるように聞いた。


「うん」


八音は千世のことが気になったように続けた。

「千世って子は?」


「ドイツとかフランスとか、その辺から来てる子で、小説を書きたいとか、そういうことらしい」


「小説かあ……」

八音は長い溜め息を見るように呟いた。


二人の間に沈黙が訪れ、窓から差し込む午後の光が道場の床に柔らかく落ちていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る