第6話

 小さな湯気がゆらゆらと揺れている。

 八音が急須を傾ける音だけが、道場に静かに響いた。


「……道場って、ソファーとかあったよね」

 幾夏がぽつりと口にした。


「ソファー?」八音は眉をひそめる。「元々ないよ」


「いるなら贈る」


「いらないと思うよ。……みんなの代表して言うわけじゃないけど」


 幾夏は笑って、湯呑に口をつけた。

「話、違うけど」

 と、声の調子を少しだけ落とす。


「この前、外国のテロリストの名簿を売買してる連中の、そのブローカーの人に会ったんだ」


 八音は目を瞬かせたが、何も言わない。


「渋谷にある事務所みたいな場所。見学するだけでいいって言われたんだけど……そのブローカー、変わった趣味で…」

 幾夏は湯呑を両手で包み込み、視線を遠くへやった。


「最初、蝋人形だと思ったんだよ。ずっと動かないんだもん。……でも、本物の人間だった」


 八音は少しだけ、口元を緩めた。

「幾夏が珍しいね。びっくりするなんて」

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