第5話

 湯を注ぎ終えた急須を、八音が両手で持ち、ゆっくりと湯呑に移す。

琥珀色の液面が波を描き、ほのかな香りと湯気が顔を包んだ。


 幾夏は湯呑を両手で包み込み、軽く口先を近づける。

外の蝉の声が、障子の向こうからかすかに聞こえていた。

二人の間には言葉もなく、ただ時間が静かに流れていく。


 やがて、湯呑の中の湯気が少しずつ薄れ始めたころ――

八音がふと、視線を湯呑から幾夏へと上げた。

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