第4話

 道場の扉を開けると、木の香りがふわりと鼻をくすぐった。

外の光が障子越しに淡く差し込み、床に柔らかな四角い模様を落としている。

壁際には木刀や竹刀が整然と立て掛けられ、使い込まれた木の棚には湯飲みや急須が並んでいた。


 八音は靴を脱ぎ、音を立てぬよう畳の上に上がる。幾夏もそれにならい、足を揃えて進む。

中央に置かれた長方形の低い卓には、湯呑二つと急須が既に揃えられていた。

八音が棚から茶筒を取り出し、静かに蓋を開ける。乾いた茶葉の香りが、ほのかに漂った。


 鉄瓶に水を注ぎ、卓上の小さなコンロに火を入れる。しばしの沈黙の中、コトコトと水が温まる音が響いた。

幾夏は湯呑を手に取り、軽くすすいでから卓に並べ直す。

やがて鉄瓶が小さく沸き立つ音を立て、湯気が白く立ちのぼった。


 八音は急須に茶葉を入れ、湯を注ぐ。その所作はゆっくりで、どこか儀式めいている。

湯気と共に、温かな香りが道場の空気を満たしていった。

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