第25話 結婚の飴細工

結婚の飴細工

7月28日


「おい、ガキども」


 午前1時頃に俺たちは叩き起こされるが、夕方に眠ってしまった俺たちはすぐに起きる。


「今すぐにここから逃げろ、警察が早朝にここに来る」


「え?」


「偶々だぞ、別に盗み聞きしようとしたわけじゃない。偶々さっき、警察署の前を通りかかったら聞こえたんだよ。ここの民宿に2人がいて、今日の早朝確保するってな」


「飴」


「うん」


 俺と飴は用意しておいた荷物を纏めてすぐ服を着替える。服は白色の服だ。


「目立たないように黒の方がいいぜ」


「ううん。悠鶴さん、私たち結婚するんだ」


「は?」


「結婚式を挙げてくるの。だから白い服なの」


「……ああそう」


 悠鶴さんは何かを悟ったように頷くと、それ以上何も聞かずに車を出してくれる。


「俺はお前たちを止めない、そんな権利無いし俺には関係ないからな。ただ、俺はお前たちの門出には立ち会えないが幸せを祈ってる。それがお前たちの決めた未来なら、俺は全力で応援するぜ」


「ありがとうございます、悠鶴さん」


 俺と飴は車に乗り込み、悠鶴さんは静かな夜に車を走らせる。遠回りをしているようで、警察に見つからないように、足が付かないようにしているのが分かった。駅に着いたとき、俺と飴はある荷物を車の中に置いていく。


「おい、」


「それは悠鶴さんのものです」


「は?」


「中にタバコとお金が入ってます。お礼として受け取って下さい。あぁ後、流麗月家の通帳も」


「はぁ?あのなぁ、俺は金が欲しくてこんな事やってんじゃねえんだよ、」


「もう、俺らには必要ないから。だから、貰って下さい。人助けだと思って」


 そこまで言うと、悠鶴さんは諦めたように頭をグシャグシャと掻いた後、降りてきて俺たちの頭を乱暴に掻き回す。


「元気でな」


「「はい!」」


 俺たちは元気に返事をし、電車に乗って都心へ向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「飴」


「伊聡」


 都心へ降りた俺たちが向かうのは屋上がある高いビル。俺たちは手を繋ぎながら歩いていく。持ってきた荷物は全部駅に捨ててきた。本当はあの民宿に捨てて行こうかと思ったが、迷惑になるからやめた。まぁ、どこに捨てても迷惑だけど。


 今俺たちは何も変装はしていない。ただ真っ白な服を着て歩いているだけ。真っ白だから人の目を引くし、俺たちの顔を知っている人は驚いてどこかに電話をかけている。ああ、もう時間が無いかもしれない。


「飴!」


「うん!」


 俺たちは手を繋ぎながら人混みを走り抜ける。何故か皆道を開けてくれて、俺たちはビルの中に入る。勿論、入口に立っていた警備員に止められたが、


「俺は御石聡の息子の御石伊聡だ!!!」


 そう叫ぶとビルのエントランスの人だけなく通行人までが皆手を止め足を止め、視線をこちらに向ける。


「隣にいるのは流麗月飴!流麗月晶の娘だ!!」


 ついでに飴の名前も名乗って俺と飴は学生書をその場に投げ捨てる。それを拾った人は驚きの声をあげる。


「ほ、本物だぞ!!」


 ザワザワとしていく群衆に飴はニコリと笑顔を向ける。その美貌に当てられた者は誰彼構わず頬を赤く染め、意識を現実から手放す。その隙を狙って俺と飴はエレベーターに乗り込み迷わず最上階を押す。ウィーンと上がっていく景色を見ながら俺と飴は胸を膨らます。

 ガチャンとドアが開くと、そこには誰もいなくて屋上のドアを開ける。ああ良かった、鍵が掛かっていなくて。そのために色々工具を持ってきたが使う必要は無く、俺はその場に全てを投げ捨てる。


 俺と飴はフェンスを乗り越えて建物の縁ギリギリに立つと、さっき閉めたはずの屋上のドアが思い切り開けられる。そこにはスーツを着た人たちと警察の人たち。


「待て!」


「来るな!」


 俺は隠し持っていた包丁を飴に向ける。すると、相手はピタリと止まる。そうなのだ、相手の動きを止めたければ相手に向けるのでは無く、自分の方にいる人質となる人物に向けるのが1番良い。


「動いたら飴を殺す」


「…………」


「………ねぇ、刑事さん、警察官さん」


 俺はゆったりと話す。


「俺と飴は結婚するんだ」


「何を、」


「うん、知ってる。俺らの年齢じゃ結婚できないって知ってるけど、結婚するんだ。だから今、結婚式の途中だから邪魔しないでよ」


「おい、何を言っているんだ」


「すっごい楽しかった、この1週間。今まで生きてきた中で1番充実してた1週間で、この1週間で俺の人生の価値はあったよ」


「おい早まるな!君たちならまだ…」


「もう、手遅れなんだよ」


 俺は飴のスマホをポケットから引き抜いて俺のスマホと一緒にそちらへ投げ捨てる。


「全部入ってる。そこに、全部真実が」


「…………何を、」


「飴、結婚しよう!!!」


「うん、うん!!!」


 俺は包丁を投げ捨てる。その瞬間、皆が一斉に動き出す。



「愛してる」


「私も、愛してる」




 俺は手を絡めて、腰に手を当てて、








       飴の唇にキスをする。








そしてそのまま、俺たちは地上に堕ちていった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る