第7話 大量生産
朝6時に玄関から出ると、一陣の風が体に吹き付けてきた。長袖の上にセーターを着ているのに全然防げていない。俺は一旦家に入り厚手のジャンパーを着て外に出た。
古民家を囲む周りの木々はほとんどの葉を散らしている。古民家や射撃場の周りには大量の枯れ葉が散乱していて歩くたびにパリパリとして気持ち良い音が鳴る。
今日は魔法弾の開発に成功してから5日目。11月18日だ。ここに来た時はまだうだるような暑さが続いていたが、研究生産に没頭している間にいつの間にか秋が来て、その秋ももう過ぎ去ってしまいそうになっていた。
吐いた息が白い煙になり消えていく。桧原村は西の端にあるため都内よりもかなり寒いようだ。
「よし。やるか!」
俺は気合を入れると射撃場に向かった。扉を開けて中に入ると9ミリ弾が詰まっている箱を空け、一つ一つの弾丸に魔法を付与し始めた。前みたいに一発ずつ打たなくていいため、短時間で魔法弾を生産することができている。
火属性のオーラを込めると赤色に
氷属性のオーラを込めると青色に
雷属性のオーラを込めると黄色に
風属性のオーラを込めると緑色に
爆発属性のオーラを込めると紫色に
弾頭の色がそれぞれ変わるためすぐに魔法が付与できたことが分かるのがありがたい。あとはひたすらこれらの弾を増やしていくだけだ。
別に家の中で机に座ってこの作業をしてもいいのだが、暖房が聞いた暖かい場所でずっと作業をしているとつい眠くなってしまい作業効率が下がるため、俺はあえて射撃場で魔法弾を作っていた。
開発が成功してから昨日までの五日間で俺はすでに10万発以上の魔法弾を生産していた。俺が本来持つオーラ量だけではここまでの生産は不可能なのだが、魔法回復薬であるタミエルを今までと同じように一日10本飲み続けることにより魔法弾の大量生産を行っていた。
というのもタミエルを飲んだ時に起こる、吐き気やめまい、頭痛と言った副作用が、四日ほど前のある瞬間から全てなくなっていたからだ。
そのため、今はタミエルを飲んでも苦いだけであまり辛くはなかった。おそらく寿命は減っていってしまうのだろうが、副作用がないだけでも信じられないほど楽だった。
もともと、ちまちました単純作業は嫌いじゃない。小学生の頃の家庭科の裁縫の時間はとても楽しかったしいつも先生に褒められていた。
それに、この一発一発が唯を救うことにつながっていると思うとなおさらモチベーションは上がる。このままハイペースで生産を続けていけば来月には店を始めることができそうだ。
俺は一刻も早く金を稼いでエリクサーを手に入れなければならない。もしオークションでエリクサーが出品されても、俺が落札できなければ意味がない。妹の命を救えなけば、魔法弾を開発できたことも無駄になってしまう。自分の寿命なんて今は気にしていられない。
頭の中には妹を救うことしか考えていなかった。
俺は休憩の時間もあまりとらないまま、タミエルをだいたい二時間おきに摂取し、ひたすら魔法弾を作り出していった。
♢ ♢ ♢
「うわっ!」
午後3時過ぎ、本日10本目のタミエルを飲み終えた時。急に頭の右側に激しい痛みが走った。
「うっ、ううーー、なんだこれ!? いってぇー」
立ってられないほどの痛みに思わず足がふらついてしまいソファに座り込んだ。
「はぁ、はぁ……治ったか?」
痛みは10秒ほどでなくなった。短い時間だったが脳内を抉られたのかと思うほど強烈な痛みだった。
「ふーーー」
目を閉じてゆっくり深呼吸をする。頭の痛みはどうやらもう大丈夫みたいだ。しかし、今度は左手になにやら違和感を感じた。
左手を顔の前に持ってきてゆっくりと動かしてみると、中指と人差し指の指先が痺れており、意図した動きが出来なくなっていた。
机の上に置いてある一つの銃弾を掴もうと思ってもうまく掴むことができなかった。
「なんだよこれ!! どういうことだ!?」
今の鋭い痛みに加え、左手の痺れ。
大丈夫なのか俺の体。未だかつて経験したことがない状況に不安が込み上げてくる。
突然の体の変化に頭がついていかない。しばらく呆然と考え込んでいたが、ふと今飲み干したタミエルの瓶のラベルを見た。
そこには薬の副作用として、激しい頭痛、めまいと吐き気。血管を傷みつけることによる脳梗塞や心筋梗塞の発生リスクの増大。手足の痺れ。と書かれていた。
その文章を読んで俺は少し冷静さを取り戻した。
今起こった体の異常はおそらくタミエルの副作用だろう。一日十本といい異常な量を摂取し続けてしまった代償がついに現れてしまったみたいだ。
「ふー、これ以上はやめておくか。俺が先に死ぬわけにはいかないからな」
俺は仕方がなくタミエルの使用をやめることを決めた。もうしばらく続けたかったが体へのリスクを考えるとこれぐらいでやめておいたほうが良いだろう。
俺は再び魔法弾の生産を続けた。
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