第6話 魔法弾

 開発を始めて45日後の午後9時。俺はひたすら弾を撃ちまくっていた。鉄製の鎧に弾が当たり、甲高い金属音が響いている。


 開発を始めてから40万発以上打っているためか、自然と腕が上達してしまい、今では狙った場所にほぼ100%の確率で当てられるようになっていた。


 一日10本のオーラ回復薬を薬を飲み続けているため、辛い副作用は続いているが、前よりは痛みが弱く感じるようになってきていた。もしかしたら自分の痛みを感じる神経が麻痺してしまったのかもしれない。


 金はもうすぐ底をつきそうだ。なのに、開発が成功する兆しも全くなかった。しかし、俺はもう悩むのをやめていた。余計なことは考えず、まるでロボットにでもなったかのように無心で弾を撃ち続けていた。


 弾を撃ち終わると、紙に記録を残してから再び箱から弾を10個取り出し、一つずつ手のひらの上でオーラを込めていく。


「えっ!!」


 10個のうち4個目の弾丸にオーラを込めたとき、今までにない変化が起こった。弾頭が赤色に変わったのだ。俺は思わず声を上げた。


「な、なんだこれは……。で、できた……のか?」


 俺はその弾をまじまじと見つめた。確かに弾頭の色が赤くなっている。絶対に見間違いではない。


 恐る恐るその弾を弾倉に詰め、構えると、震える指で引き金を引いた。


 轟音と共に発射された弾は、甲冑の胸元に当たり激しい炎が広がった。


「付与できてる……。ま、まじか……。すごい威力だ」


 今の炎は俺が30000ほどのオーラを込めて放つB級魔法と同じぐらいの威力はあった。遥かに少ないオーラしか込めていないのに……。


 俺は机の上のメモに目を写した。


「えっと……、手に持ったのは四つ目だから……。299.634か……。えぐっ!」


 魔法が付与できたオーラ量があまりに細かい数字で俺はひいてしまう。よく見つけられたものだ。


 弾に込めたオーラ量は約300。そして実際の魔法弾の威力は約30000。魔法を弾に付与すると100倍の威力になることが分かった。


「これは凄いな……。あの中国人が言っていたことは本当だったんだ」


 俺は込み上げる興奮をなんとか封じ込め、同様に氷属性、雷属性、風属性、爆発属性の弾を作っていく。


 すると、氷属性の弾は水色、雷属性の弾は黄色、風属性の弾は緑色、爆発属性の弾は紫にそれぞれ色を変えた。


 俺はそれらの弾を弾倉に詰めると、設置されている4体の甲冑に向かって、引き金を引いていく。


 氷属性の弾は、撃たれた鎧が瞬く間に氷に包まれた。

 

 雷属性の弾は、バリバリという激しい音を立てながら、電気を放出し、鎧に閃光が走った。


 風属性の弾は鎧に当たると、鋭い風の刃を放出しし、鎧を真っ二つに切り裂いた。


 爆破属性の弾は、鎧に当たると鋭い音を立てて爆発した。鎧はボロボロになって地面に落ちた。


 どの弾も火属性弾丸と同じで、俺が普段使うB級魔法と同じ威力があった。俺は実験の成功を確信した。


「はぁはぁ。見つけた……見つけたんだーー!! うぉー!! 俺はやったぞ!!」


 抑えられない喜びが爆発した。両手を天に突き上げて雄叫びを上げる。興奮や、達成感、充実感などの感情が全身を駆け巡っていく。


 夜だというのに俺は大声で叫び続けた。ここが人里離れた場所で本当に良かった。


 カウンターの上に置かれた紙には俺は馬鹿でかい文字で299.634と書いた。


「オーラ量299.634って、こんなの見つけられるわけないだろ!! あー疲れたぁあああーーー!!」


 俺は拳銃をカウンターの上に置くとふらふらとソファの元へ歩いていき仰向けに耐えれ込んだ。


「唯……。にいちゃん、やったよ……」


 喜びが涙となって頬を伝っていく。


 これで能力者でなくても魔法が使えるようになる。弾を打つだけでB級魔法が使えたら低層で伸び悩んでいる非能力者達も喜ぶだろう。俺は魔法弾が爆売れすることを確信した。


 一桁のオーラ調整だって出来ない人が多いのに、千分の一の位のオーラ調整なんてできる人がいるわけない。いや、なかにはできる人はいるんだろうが極めて稀なはずだ。中国の企業が1万人以上動員してもできなかったんだから。


 ただ、いつかは同じように魔法弾を開発する人も出てくるだろう。しかしこの難易度だ。すぐには厳しいはずだ。この弾でしばらくは市場を独占することができるだろう。


 これで妹を救うための道が開けた。あとはこの魔法弾を大量生産し、店を開いて売るだけだ。


 闇の中に沈んでいた心に光がさしていく。今までに感じたことがないほどの達成感が身体を満たしていった。


 しばらくソファで喜びを味わっているとだんだん眠くなってきてしまった。俺はソファから起き上がり家に向かおうとした。しかし、その前にもう一度、魔法弾を撃とうと思い射撃カウンターに近づいていく。


「299.634か……」


 カウンターの上に置かれている紙に書かれた数字を見て、俺はあることを思いついた。


 箱から弾丸を取り出すと、オーラを込めていった。成功したオーラ量299.634の10倍の2996.34を。


 しかし、弾に変化は無かった。俺は諦めずに2996.341、2996.342、2996.343と小数第3位の数字まで探っていく。


 すると2996.347のオーラを込めたとき、再び弾頭の色が赤く変化した。先ほどよりも遥かに濃い色で……


「いけたのか……?」


 俺はその弾を弾倉に詰めるとゆっくりと引き金を引いた。弾はまっすぐに鎧に向かっていき、鎧に当たった。その瞬間、とてつもない量の炎が舞い上がり、土壁や五体の鎧を包んでいった。


 30メートルも距離が離れているのにこちらまで熱を感じるほどの炎の勢いに俺は度肝を抜かれた。今の弾はA級魔法レベルの威力があるように見えた。親友だった洋輔が使う火属性魔法とそっくりだったからだ。


「す、凄い。込めるオーラ量を上げればさらに球の威力を上げられるんだ!! これはとんでもないことだぞ!!」


 俺は興奮を胸に抱えながら、10倍のオーラを込めて別の属性の弾も作っていった。どの弾も弾頭の色が濃く変化した。しかし、ここで撃つのはもうやめておいた。射撃場が壊れてしまいそうだからだ。


 前方を見ると、土壁や甲冑が煤で黒くなっていた。もの凄い威力だ。完全に元々の俺の力を超えている。


 溢れる興奮の中、俺はさらにあることを思いついた。


 俺のオーラ総量は90万だ。その90万のうち、一回で体外に放出できるオーラ量のことを瞬間最大オーラという。


 俺の瞬間最大オーラは20万ほどだ。そのため、もう一段階上の弾を作ることができる。


 俺は一つだけ弾を手に持つと先ほどよりもさらに10倍の29963.47オーラを込めた。しかし弾に変化はない。


 そこで先ほどと同じように0.01単位を調整して探っていく。すると29964.378のオーラを込めた弾に変化が出た。


 弾頭が赤く光り始めたのだ。キラキラと眩い光を放ちながら美しく輝いている。


 俺は他の属性の弾も同様に作り上げていった。


 1分後には赤色、水色、黄色、緑色、紫色の5色に輝く弾丸が射撃カウンターの上に並んだ。弾の周りのカウンターに光の筋ができるほど強い光を放っている。


 その姿はまるで宝石のようにも見えた。


「すげぇ……」


 あまりにも美しい様子に俺は息を呑んだ。ただの9ミリ弾がすごい変化を遂げてしまった。


「凄いな!! 絶対これやばいやつだろ!!」


 俺は興奮のままに撃ちたくなってしまったが、ギリギリのところで思いとどまった。ここで撃ったら射撃場がめちゃくちゃになってしまいそうだ。


 俺が込めたオーラは約3万。他の弾と同じなら300万オーラ分の威力があることになる。200万以上のオーラを使った魔法のことをS級魔法と呼ぶため、計算上はS級の威力が出るはずだ。今度ダンジョンに行った時にでも試してみよう。


 俺は射撃カウンター前の椅子に座り込んだ。


 B級魔法の威力を持つ魔法弾に加え、A級とS級の弾も作り出せてしまった。脳内から絶えずドーパミンが溢れだしているのか、心が幸福感で満たされそうになるが、俺はあえて一度冷静になろうとした。


「落ち着け。まだ妹を助けられたわけじゃない。喜ぶのはここまでにしておこう。後はこの弾を使ってどうやって金を稼いでいくかだ……」


 俺はこれからの自分の行動を計画していく。最前で妹を救うための道を。


「A級とS級の弾を売るのはやめとこう……」


 思考を巡らせた結果、俺はA級とS級に値する魔法弾は一般には売らないことにし、B級の魔法弾だけを大量生産していくことに決めた。


 二つの弾は一歩間違えたら容易に怪我をしてしまう威力だし、この弾を買った人たちがダンジョン内で活躍するようになったら、周りからの反感をかいかねないと考えたからだ。


 こういうのはバランスが大切だろう。変に悪目立ちしたくはない。もし周りの冒険者たちから敵意の目で見られたら弾の販売ができなくなってしまうこともあり得る。そんなことになったら妹を助ける道も狭まってしまう。


 俺は古民家に戻り、風呂に入ってから遅い夕食を済ませた。その後は早速、魔法弾を大量生産する計画と、弾丸ショップを開くための方法を調べ始めた。


 建物の周りには鈴虫の心地いい音色が響いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る