第8話 商売開始

「だめだ。全く来ない……」


 俺は椅子に座りながらレジ横のカウンターに頬杖をついていた。


 魔法弾の開発に成功してから一ヶ月が経過した。今日は12月13日。季節はすっかり秋から冬に移り変わり寒い日が増えた。家の周りの木々もすっかり葉を落とし、春を迎える準備をしている。


 冷たい風が外から吹き込んでくる。俺はカイロを握りしめた。


 この一ヶ月、俺は魔法弾の大量生産をしながら弾丸ショップを開く準備を進めてきた。ちょうど4日前に経営許可が出たため俺は弾丸ショップを3日前にオープンさせた。


 店といっても納屋を改造して作った射撃場の一画に机とレジをおいただけの冴えない店舗だ。外から見た店の見た目は最悪だが今は仕方がないだろう。


「いやー、まいったな……。どうしよう」


 せっかく店を開いたと言うのに昨日までの2日間、一人の来客もなく俺は落ち込んでいた。


「あと三ヶ月以内に2億以上はするエリクサーを手に入れなければいけないのに……」


 心の中には焦りの色が浮かんでいる。昨日久しぶりに妹に会いに行ってきたが以前よりもかなり憔悴していた。


(やはりもっと大々的に宣伝をしないと厳しいか……。場所も山奥だしな。何か手を打たないとまずい)


 この場所に続く道路に一つだけ看板を置いた以外の宣伝はまだしていなかった。もっと広告をうちたいが、弾丸の大量生産と店の準備費用に残りの全てのお金を使ってしまったため、もう数万円しか貯金は残っていなかった。

 

「とりあえず、SNSで宣伝してみるか。三百人しかフォロワーがいないけど……」


 俺はスマホを操作し『Z』を開いた。Zは今流行しているSNSで、思ったことを呟くことができる。商売をしている人たちが宣伝にも使っていることは前々から知っていたため、俺もやってみる事にした。


『魔法弾ショップ始めました。9ミリパラベラム弾しか置いてませんが、もし良かったら試してみてください』


 そう呟くと俺はスマホを閉じた。そのタイミングで店の扉が開き一人の男性が入ってきた。

顔の皺や白髪の量から、40代ぐらいに見えた。メガネをかけており、やや小太りの体型をしている。腰に拳銃が入ったホルスターを付けているところを見ると俺と同じ探索者なのだろう。


「すみません。道路沿いの看板を見てきたんですけど、魔法弾って本当にあるんですか?」


「ありますよ! 9ミリ弾だけですが……」


「見せてください」


「承知しました。こちらに射撃場があるので、ぜひ試してみてください」


「わ、わかりました」


 俺の言葉を聞いてもおじさんは半信半疑の顔をしていた。それも仕方ないことだろう。世界中どこを探したって魔法が付与された弾なんてここにしか無いのだから。


 初めての客を射撃カウンターに立たせると、俺は火炎弾、電撃弾、氷結弾、爆裂弾、風刃弾の5つの弾をカウンターの上に置き、それぞれの弾について説明し始めた。


「右から順番に火炎弾、電撃弾、氷結弾、風刃弾、爆裂弾です。名前の通り、モンスターに当たるとそれぞれの属性魔法が発動します。威力は大体B級魔法程度の威力です。C級モンスターまでなら一撃。弱点属性を狙えばB級モンスターも倒せると思います」


「B級の威力ですか!? すごいですね!! もし本当だったらとんでも無いことですよ!」


 まだ、どこか疑っている様子がおじさんから伝わってくる。


「安心してください。イカサマでは無いので、ぜひ試してみてください。拳銃はご自身のを使われますか?」


「ええ、これを使います」


 おじさんはホルスターからFN509を取り出し、弾倉に弾を装填していく。


 おじさんは甲冑に狙いを定めて引き金を引いた。すると炸裂音と共に弾が飛び出し、甲冑に当たった。その瞬間、着弾点から直径二メートルほどの炎が広がった。


「おおっ!!」


 おじさんは興奮した様子で大きな声を上げた。細い眼を見開き目を丸くしている。こんなに驚いてくれるとは。頑張った甲斐があった。


 おじさんは次々に、氷結弾、雷撃弾、風刃弾爆裂弾を撃っていった。反応は良好で、火炎弾の時と同じく、興奮しながら歓声を上げていた。子供みたいにはしゃぐ姿が面白い。


「すっごいですよ!! これ!! 私みたいな非能力者にとっては夢のような弾丸です!! 信じられません!!」


「喜んでもらえて良かったです。開発にずいぶん苦労しましたから」


「そうですよね。魔法弾なんて聞いたこともありません。世界初じゃないですか? 是非購入したいです!」


「承知しました。ではレジの方までお越しください」


 レジまで戻ると俺は男性の前に9ミリ弾が50発入った箱を差し出した。


「この箱の中に、先程の弾が10発ずつ入っています」


 俺は箱を開けて中身を見せる。


「弾頭に色がついているので分かりやすいと思います。赤が火炎弾、青が氷結弾、黄色が電撃弾、紫が爆裂弾、色なしが強化弾です。販売しているのは箱売りのみで、バラ売りはしていません」


「なるほど分かりやすいですね。それで一箱いくらですか?」


「一箱五万円です」


「五万円ですか……」


 客のどちらとも取れる反応に俺は少し緊張してしまう。ちょっと高すぎたかもしれない。


「一発だと千円なので、通常の弾よりは遥かに高いですね。でも、あれほどの威力があるのですからこの値段設定も十分頷けます。D級探索者の私にとっては出費ですが二箱買わせてください。さっそく、ダンジョンで試してみます!」


「ありがとうございます!」


 男性客は十万円を支払うと嬉しそうに店を出ていった。自分が開発した商品が初めて売れたためとても嬉しかった。


 この後さらに二人の客が訪ねてきて四箱が売れた。


 試し打ちした客はみな、度肝を抜かれたような顔をして驚いていた。値段設定を高くしすぎたか不安だったが、誰も文句を言う人がいなかったため一安心だった。


 今日の売り上げは三十万円。まだまだ売り上げは少ないが、客の反応には確かな手応えを感じていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る