第4話 研究開始
魔法弾の開発を決意してから三日後、俺は東京都の西側の端に位置する桧原村にいた。時刻は午前10時だ。
ここは人里離れた山奥に一軒だけ佇む古民家だ。俺は今、縁側に腰掛け建物の周りの景色を見ていた。目の前にはにはテニスコート4面分程度の畑が広がっている、もっとも、畑といっても雑草が生い茂っているためかなり手入れをしなければ、使い物にならないだろう。
目の前に広がる自然豊かな景色は、六年前に亡くなった、新潟のおばあちゃんの家の景色と似ていて懐かしい気持ちになってくる。
「暑いな……」
9月の初旬であるため、まだまだ暑さが厳しい。Tシャツの中ではじんわりと汗をかいているのがわかる。早く涼しくなってほしい。
3日前、魔法弾を開発すると決めた俺は、すぐに開発に適した土地を探し回った。そしてここの土地を見つけたのだ。
俺は一昨日、下見を行うとすぐにこの建物と土地を購入した。村の中心から車で20分かかる立地のため値段はかなり安く。建物と土地代を合わせて1800万円で購入することができた。
ここなら周りに気にせず弾丸の開発ができる。探索者は自らが所有する土地の中であれば、銃火器の使用を認められていた。もちろん安全には十分に配慮しなければならないが。
下に置いてある靴を履くと古民家の裏手にある納屋に向かった。
納屋の中には銃を撃つためのカウンターが設置されている。30メートルほど先には土壁で作った壁が立っていて、その前に西洋風の甲冑を置いてある。これは俺が手作りで作った射撃場だ。横幅5メートル、縦30メートルのスペースがあった。
昨日、納屋の片面の壁を取り壊し、その先に土属性魔法を駆使して土壁を立てたのだ。間違っても人や動物が入り込まないように土壁で射撃場はぐるっと囲ってある。
納屋を改造し射撃スペースにしたのは雨が降っても撃てるようにするためだ。この場所なら誰に見られることもなく音も気にせずに射撃をすることができる。
カウンターの上には数え切れないほどの9ミリパラベラム弾が入った箱が置かれている。また、後ろのスペースにも箱が山のように積まれている。
「これだけあればなんとかなるだろう」
ネットで注文した数は10万発、値段は400万円かかった。
土地と建物代を含めかなりの金額がかかってしまった。2億を貯めなければならない俺にとってかなりの痛手だが、初期投資に金がかかるのは仕方がないだろう。開発が成功すれば何倍にもなって帰ってくるはずだ。
俺はカウンターの前に立つと、50発入りの箱から弾丸を取り出しさっそく開発を始めた。
♢ ♢ ♢
手始めに俺は弾丸を一つだけ手のひらの上に置き、弾頭に向かって1オーラだけ流し込んでみた。見た目には何も変化がなかったが確かに弾頭の中に俺の火属性のオーラが入ったはずだ。
俺はその1発だけをマガジンに入れ、ターゲットに向かって撃ってみた。パンッという轟音と共に発射された弾は甲冑に当たった。しかし、なんの変化もない普通の弾丸だった。どうやらオーラ量が1だと魔法は付与されないようだ。
俺は成功するまで、しらみ潰しに試していくつもりだった。試しにまずはオーラ量1から1000までの範囲を試してみる予定だ。
1000までの範囲を探ろうとしているのは魔法弾を偶然作った中国の探索者が魔法レベルDの探索者だったからだ。
魔法レベルDの能力者が一度に体外に放出することができる魔法量は大体200から1000までの間ぐらいとされている。そのため、俺はこの範囲の中に答えはあるとにらんでいた。
魔法弾の開発は化学の実験に似ている。成功するまでは粘り強い努力と失敗を積み重ねるしかないだろう。
次に俺は弾丸を9つ取り出し、オーラ量2から9までをそれぞれに込めて行った。話によると普通の人間はオーラコントロールが得意な人でも百の単位でしか量を調節できないらしい。
しかし、俺は自分の中にもっと繊細な量の秤のような感覚があるため、わずかなオーラ量も調節することができる。
俺はオーラを込めた9つの弾を弾倉に込め、次々に発射していく。しかし、弾になにも変化はなかった。
「ひたすら撃っていくしかないな。なるべく早めに見つかることを祈って……」
どこまで調べたか分からなくならないようにメモを残しながら、ひたすらその作業を繰り返して行った。
♢ ♢ ♢
「だめだ。見つからない」
2時間後の12時10分。俺はオーラ量1から1000まで込めた弾丸を全て打ち終えた。しかし、魔法が適正に付与された弾丸はその中にはなかった。どうやらさらに細かいところに正解はあるみたいだ。
予想はしていたけどやはり魔法弾の開発は簡単ではないようだ。しかし、落ち込んでいる暇はない。
俺は後方の壁の近くにある机まで歩いていくと、カウンターの上に置いてある水筒を手に取った。中に入っている麦茶を一口飲むと、タオルで顔まわりの汗を拭き、再び射撃カウンターに戻った。
「よしっ」
俺は自分に気合いを入れると今度はオーラ量1.1から999.9までを調べ始めた。
♢ ♢ ♢
5時間後の17時15分。オーラ量324.8まで調べたところで体内のオーラが切れてしまった。俺は仕方がなく後ろの壁に置かれているソファに倒れ込んだ。
夕日が木々の隙間から差し込んでくる。美しい景色なのだろうが今は味わっている余裕はない。
「くそっ。これじゃあ、1日で調べられる数が少なすぎる。あと半年で1億以上稼がなくちゃならないのに……」
俺のオーラの総量は約90万しかなかった。S級能力者であればあと10倍は実験が続けられるのに。ここでも才能の壁にぶつかってしまう。すごく歯痒い思いだった。
試しても試しても結果は出ないことが、さらに気持ちを焦らせてくる。なにも期限がなければのんびり開発を進めて行けばいいのだろうが、俺と妹にはそんな時間は無かった。
時間が経つにつれ、唯の喉元に向かって真上からナイフが迫っていく気がする。悠長に自分のオーラが回復するのを待っている気にはなれなかった。
「あれを使うか……」
ソファから起き上がると、机の上に置いていたポーチ型のアイテムボックスから一本の瓶を取り出した。透明な丸型の容器の中に100ml程の赤い液体が入っている。
オーラ回復薬『タミエル』
ころは探索者協会が使用を制限している劇薬だ。飲むと100万オーラが回復するが、激しい頭痛に襲われれると共に、3日間寿命を縮めると言われている。
あまりの危険度から探索者協会は一回のダンジョン探索につき一本までしかダンジョン内への持ち込みを認めていない。
タミエルはオーラが切れた後になにかあった時だけ飲むように言われている劇薬だ。
ちなみに、100mlしか入っていないのに値段は10万円もする。普段なら絶対に飲まないのだが今の俺には神の薬に思えた。
俺は銀色のキャップを外すと赤い液体を飲み干してた。そこら辺に生えている植物の葉をすり潰したかのような苦い味が口の中に広がる。苦いなんてもんじゃない。俺は慌てて口を麦茶ですすいだ。消毒液のような匂いも苦手だった。
飲み終えるとすぐにオーラが回復していくのが分かった。ただ、それと同時に40度の熱が出ているようなひどい頭痛と体のだるさが全身に広がっていく。目眩のような症状も感じ、足元がふらつく。
「うう、これはかなりきついな……。でも、これでまだ研究が続けられる」
俺は古民家に戻り冷蔵庫から保冷剤を持ってくると、それを火照った頭に当てながら再び作業を開始した。
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