第3話 一縷の望み
病室の窓の外はいつの間にか本降りになっていた。激しい雨がガラスに当たり不規則な音を立てている。
椅子の肘置きに両肘を置き、顔の前で手のひらを合わせながら妹を助けるための方法を考える。
俺が五年間で貯めてきた貯金は8000万円。
A級パーティから追放された今、あと半年間で1億2000万円を貯めるのは正攻法ではもう難しいだろう。そもそも、追放されず、A級パーティのままいけたとしても足りなかったかもしれない。
今の危機的状況を打開する手を必死に考え続ける。しかし、どんなに考え続けても、なにも思いつかずいたずらに時間が過ぎていくだけだった。
「くそっ。思いつかない」
どんなに考えてもアイデアが出ず、俺は激しく頭を掻きむしる。たった半年しか無いのにどんどん時間が過ぎていってしまう。まるで、妹に向かって死神が鎌を持って近づいてくるかのようで、居ても立っても居られない心地だ。
一度冷静になろう。
俺はダンジョン探索用に身に付けているタクティカルスーツの胸ポケットを弄っていく。どこかにミントガムが入っていたはずだ。
ガムを探していると、右胸のポケットに何か入っている。取り出してみるとそれは拳銃の弾丸だった。先ほどダンジョンから帰還した時に、拳銃内から取り出してポケットに入れていたみたいだ。
「あぶないあぶない……」
探索者登録をした時に拳銃の扱いと管理の仕方は学んでいた。弾丸の管理はきちんとしなければいけない。こんなところに入れっぱなしにしておくなんてもってのほかだ。
俺は9ミリ弾を先ほど拳銃を入れたリュックに入れようとした。しかし、その瞬間、あることを思い出し、昔のニュース記事をスマホで調べ始めた。
「確か一年ぐらい前の記事だったな……あっ! これだ!」
その記事は日本のマスコミが取り上げるような大きなニュースでは無かった。どこかのまとめサイトが中国のニュースを紹介していて、それをたまたま目にした情報だった。俺は久しぶりに当時の記事に目を通していく。
4年ほど前に中国の田舎で一人の能力者の男が魔法弾を作り出した。だが、魔法弾は偶然できた一発のみでそれ以降、2度と再現はできなかったらしい。男はこの話を大手銃火器メーカーに持っていき魔法弾の有用性を訴えた。
中国の大手重火器メーカーは男の話を信じ、1万人以上の能力者を雇って、魔法弾の開発に乗り出した。しかし、3年が経っても結局開発が成功することは無かった。
結局、男性の証言は虚偽ということになり、男は処罰されることになったらしい。
最大手銃火器メーカーが開発に失敗し、大きな損失を出したことから、魔法弾の開発は誰もやらなくなり、話題からも消えていった。
男は投獄される直前まで「俺は嘘なんてついていない。本当に、魔法は付与できたし、弾に込めたオーラ量よりもはるかに強い魔法が出たんだ」としきりに言っていたそうだが、もう誰も信じる人はいなかった。
記事の内容を振り返り、俺は道が開けた気がした。
「これだ!」
あの時は特に何も思わなかったが、俺は、魔法付与弾を開発するしかないと直感で感じた。
おそらくこの男は偶然魔法が付与されるオーラ量を弾に注ぎ込んだのだろう。たぶん、0.1以下の割合で。それだったら俺にもチャンスがある。
俺は昔からオーラの繊細なコントロールなら誰にも負ける気はしなかった。細かいオーラを放出し操作することによって、小さな打ち上げ花火だって作ることができる。
ただ、こんなことができてもダンジョン攻略には全く役に立たない。飲み会の余興ぐらいでしか日の目を見ることはなかった。
でも、極小単位でのオーラの放出ができる俺だったら、弾丸に魔法が付与されるだけの、適正なオーラ量を見つけられる気がした。
オーラが少ない俺にとって、A級以上の魔物を倒すことは非常に難しい。せいぜい仲間のフォローが精一杯だ。だけど、魔法弾を作り出せるようになったらもしかしたらまた探索者としてさらに高みを目指せるかもしれない。
「よし、これだ。これしか無い」
俺は妹の命と自分の将来を賭けて魔法弾を開発することを決めた。
そうと決まったら早速、情報収集と分析だ。俺はスマホを使い、どの弾丸に魔法を付与すべきか調べ始めた。
現在、国内では100万人ほどの人間が探索者としてダンジョンに挑んでいる。その中で魔法が使える人間は70万人ほどだとされている。
残りの30万人は非能力者のため、拳銃やアサルトライフルなどの銃火器を使って攻略している。俺は非能力者の探索者たちがメイン武器として使用している割合を調べてみる。
すると、拳銃35%、ショットガン24%、アサルトライフル42%、スナイパーライフル9%と言うデータが出た。
スナイパーライフルが少ないのはダンジョン内では近距離での戦闘が多くなるからだろう。ダンジョン内には稀に広い空間もあるが、1番多いのは遺跡のような建物内を探索するダンジョンや、洞窟のようなダンジョンで狭い通路がほとんどだ。
先ほどの記事にはどの銃器の弾丸に魔法が付与できたのかまでは載っていなかった。おそらく銃火器メーカー側が万が一を恐れて公表しなかったのだろう。
ただ、俺は使われている火器の割合から、成功した魔法弾は拳銃かアサルトライフルの弾の可能性が高いと予想していた。どちらの弾に魔法を付与しようか考えていく。
「アサルトライフルが1番使われているし、普通に考えたらこれだな……。いや、待てよ」
俺は気になる項目を調べていく。すると魔法が使える探索者たちのほとんどが雑魚敵処理用に拳銃をダンジョンへ持ち込んでいることが分かった。その割合は81%にも上るらしい。
考えてみると同じパーティだった四人も常に拳銃を携帯していた。
「よし。弾は拳銃のやつにしよう」
俺は非能力者、能力者を問わず最も需要がありそうな拳銃の弾に魔法を付与することに決めた。それに拳銃の弾はアサルトライフルの弾に比べて安い。金を節約したい俺にとっては都合が良かった。
さらに詳しく調べてみると拳銃の弾の中では9ミリパラベラム弾が1番多く使われていることがわかった。その割合は7割を超えるようだ。
俺は考えた末に9ミリ弾に魔法を付与することを決めた。
ふと窓の外をみるといつの間にか雨が弱くなっていた。先ほどまで窓を叩いていた雨音も聞こえてこない。時刻は深夜2時を過ぎていた。ベッドの上に視線を落とすと小さな寝息を立てて唯が寝ている。
「安心してくれ。にいちゃんがすぐに治してやるからな」
発した言葉は一瞬で夜の空気に溶けて消えていく。しかし俺の心に灯った熱い炎は残ったままだ。病室を出ると足早に廊下を歩いていく。
中国の大企業が1万人以上の人員を動員しても成功できなかったぐらいだ。弾丸に魔法を付与する事が極めて難しいことなのは分かっている。
だけど……
「なんとしてもやってやる。絶対に」
どんなに険しい道だとしても退くつもりなんてない。
立川にある自宅に帰ると、俺はすぐに魔法弾の研究に適している物件を探し始めた。
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