顧客凸事件

ムスメからオジに連絡が入った。

時間は22時。

顧客が実家の近くまで来てムスメの名前を叫んでいるらしい。

あまり要点を得ないが緊急そうだ。

家から出ない限りは危害を加えられたりすることはないだろうが、ムスメがそんな顧客との付き合いを持っているだなんて実家の家族は知らないだろうし、知られたくはないだろう。

ムスメは助けてほしいと言っているがオジにできることはない。


オジは第三者として警察に不審者通報することを考えた。

住所が必要なので実家の住所を聞く。

ムスメは軽率にも住所を伝えてきた。

なんとオジの自宅から1kmも離れていない。

オジは警察に通報。

自宅近くで人の名前らしきものを叫んでいる不審者が居る、と。

近所なこともあり野次馬根性で自分でも様子を見に行った。


結果、ムスメの顧客をおぼしき人物は発見できなかった。

ムスメからも叫びは聞こえなくなったと連絡があった。

オジの通報に効果があったのかは定かではない。

しかしムスメはかなり感謝している様子だ。


オジはこの件についてわからないことが多すぎるため直後に食事を提案。

ムスメも危機を回避できた興奮もあり話したいとのこと。

日付が変わった深夜に合流して深夜営業の居酒屋へ。

背景情報を聞くことになった。


顧客は30代前半の独身。

実家近くまで車で送って貰ったことがあるそうだ。

とはいえムスメも実家まで顧客の車で行くはずもなく近くのコンビニで降りたようだ。

本名も伝えておらず愛称のみ。

名字もわからないので表札便りでも実家に辿り着けるはずもない。

愛称叫びながら住宅街を彷徨い歩いたというのだからかなりの執念だ。


何がそこまでさせたのか掘り下げる。

しばらく連絡を返していなかったことに起因するようだ。

執着が強すぎるから切ろうと思っていたとのこと。

連絡も高頻度でケアが大変らしい。

ムスメの顧客は面倒だけど払いのいい短期決戦タイプが多いようだ。

顧客の資産状況をみて絞るだけ絞ったら切り捨てて新規顧客に入れ替えていくとのこと。

かなりビジネスライクだ。


では今回の顧客はいくら払ったのか。

数日前に100万円貢がせたと言う。

100万円。愛人契約で数ヶ月分とかはないらしい。

考えようによってはシャンパンタワーよりは安いか。

ムスメ曰く車を売らせたとのこと。まともじゃない。

ちょっと減ってるけど、と言ってアルフォートの箱に入った札束を見せてきた。

取引は半年くらい続いていて総額400万円くらいはもらったと言っている。

金額設定、顧客管理など完全に手慣れた夜の蝶である。


オジは本名は知っていたし住所もすんなり聞き出せた。

この顧客とは扱いが違うように感じたので、直球で聞いてみると顧客としての行儀の良さが違うと言う。

愛や恋や信頼といったものではなかった。


あまり帰らないとはいえ家が近いこともわかり、二人はより気安く会うようになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る