第6話
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第6話 俺、異世界で初バイトするってよ。
「では、こちらが本日からあなたの勤務先となる――異世界カフェ《ねこみみ亭》です!」
女神・ルナの案内で俺が連れてこられたのは、街の中心にある木造の可愛らしい建物だった。
「おい、ちょっと待て。なんで俺がカフェで働くことになってんだよ。異世界に来たんだから、もっとこう……ドラゴン退治とか、魔王討伐とかじゃないのか?」
「安心してください。ねこみみ亭は、勇者育成支援プログラムの一環でして。異世界生活に慣れるための最初のステップなんですよ」
「バイトから始まる勇者ライフって斬新だな……」
俺は途方に暮れながらも、異世界初出勤を果たすことにした。
◆
「いらっしゃいませ〜♪ 本日もご来店ありがとうございますにゃ〜♪」
俺の隣で軽快に接客しているのは、カフェの先輩店員・リリィ。もちろん、ガチの猫耳がついてる。本物の獣人族らしい。
「……にゃ〜は無理だ。恥ずかしすぎる」
「新人くん、そこはちゃんと“にゃ〜”って言わないと減給にゃよ!」
「え、減給あんの!?」
異世界の労働条件、意外とブラックじゃねぇか!
「そ、それでは……い、いらっしゃいませにゃ……」
「ふふっ。いい感じにゃ♪」
リリィはくすくすと笑っているが、俺は顔面から火が出そうだった。
◆
「ふむ……なかなか見どころのある新人だな」
昼のピークが終わったころ、カフェに入ってきたのはゴツい鎧を着た中年の男。どう見ても場違いである。
「いらっしゃいませ……って、騎士団の人っぽくない?」
「うむ。我は王国騎士団の教官、グラド・ヴァンデル。貴様、名を名乗れ!」
「いきなり怖っ! えっと……タカミチです。無職から異世界転職してきました」
「ほう、無職か。貴様、剣は扱えるか?」
「いや、今はカフェの新人店員です」
「ならば、明日から騎士団に来い。テストしてやる」
「バイトすら一日目なのに、転職勧誘早くない?」
謎のスカウトが飛んできた。てか、こんな形式で勇者候補を拾ってくもんなの? この世界、ユルすぎでは?
◆
仕事が終わり、寮で一息つく俺。横ではルナが紅茶を飲みながら、ふんふんと鼻歌を歌っている。
「……ねぇ、俺、これからどうなるの?」
「え? 予定通りですよ。明日は《初心者冒険者講習》、その翌日は《魔法適性テスト》、週末は《王宮パーティでお披露目》です!」
「なんで俺、そんなVIP扱いされてんの!?」
「そりゃあ、ブラック企業を生き抜いたサバイバル能力が高く評価されたからです」
「ブラック企業って、異世界的には修行の場か何かか!?」
「もちろん! あなたは伝説の“根性属性Sランク保持者”なんですよ!」
属性って、根性あんの!? いや、ちょっと待て。そんなの、誇らしくないからな!
◆
その夜。俺はベッドで天井を見上げながら、静かに思った。
――異世界、自由だと思ったのに、なんかまた働いてる気がする。
けれど、どこか少しだけ、ワクワクしている自分もいた。
「ま、カフェの制服が可愛いから許すか……」
そうつぶやいて、俺は異世界初の夜にそっと眠りについた。
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次回:「初めての冒険者講習! 俺、やっぱり向いてないかも…?」
お楽しみに!
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「ブラック企業辞めたら、女神にスカウトされて異世界で無双してた件」 ブロッコリー @suzuki5527
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