第3話

第3話


初戦闘、いきなり死にかけた件。


 


村の宿屋でくつろいでいた夜。

突然、玄関が乱暴に開かれ、男が飛び込んできた。


「魔物が出たぞぉぉぉぉ!!」


俺はベッドの上で固まった。


いや、ちょっと待って。俺、戦う予定ないからね?

こっちは“スローライフ”目的で来たの。

ガチ戦闘は契約外です。


だが、そんな理屈が通じる相手ではなかった。


「お前、旅人だろ!? 冒険者ギルドに登録してなくても戦えるだろ!?」


「いやいやいや! こっちは今日来たばっかで、戦い方も知らないし!」


「スキル持ってるんだろ!? チート能力とか!!」


あっ……それはある。


時間停止(1日10分)

回復魔法(神クラス)

魔物会話スキル


だが、使い方がわからん。説明書もない。


「お願いだ! 村の外れの農場にまだ人が残ってるんだ! 助けてくれ!」


 


――その言葉に、俺は黙ってうなずいた。


ブラック企業で散々見たんだよ。

誰も助けてくれずに倒れる人間を。

あの時、俺には何もできなかった。


でも、今の俺にはスキルがある。


「……わかった。時間稼ぎくらいはやってみる」


「お、おお……ありがとう! あんた、英雄だ!!」


 


* * * 


 


村の外れに着くと、そこにはイノシシのような巨大な魔物がいた。

いや、正確には――イノシシに翼が生えてる謎クリーチャー。


『グギャァァァァ!』


うわ、こっち見た。完全にロックオンされた。


震える足を無理やり前に出し、スキルを叫んだ。


「時間停止!!」


――世界が静止した。


風が止まり、木の葉も空中で凍ったように止まる。


「すげぇ……本当に止まってる」


問題はここからだ。時間停止は1日10分まで。

攻撃力スキルはない俺にできるのは――


「農場の人間を探して、逃がす!」


無我夢中で農場の奥へ走る。

納屋の裏で怯える親子を見つけ、手を引いた。


「大丈夫! 走れるか!?」


「う、うん!」


時間停止が解けるまであと1分。


戻れ! 戻れ!


「うわあああああああ!!」


ギリギリで農場を出た瞬間、時間が動き出す。


魔物が再び暴れだし、こちらに突進してくる。


「回復魔法! ってこれ意味あるか!? 回復してる場合か!?」


『グギャァアアア!!』


避けろ――!!


ドゴォォン!!


魔物の巨体が突っ込んだ先で、爆発音が響いた。


――直後、魔物は動かなくなっていた。


 


「……え?」


その魔物の上に立っていたのは、銀髪の女騎士だった。


「遅い。まったく、あんたが新人勇者か?」


「ゆ、勇者……? いや、俺は……社畜だったけど……」


「……は?」


 


(つづく)

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