第2話



【第2話】


異世界なのに、労働させられてる件について。


 


「……着きました」


眩しい光の中、目を開けると、そこにはのどかな田園風景が広がっていた。


青い空。広がる草原。遠くに山並み。そして――牛。


異世界、来た……!


「ここは“フェルノ村”といって、異世界アルティアでも特に平和な土地です。

カイ様はしばらく、ここでスローライフをお楽しみください」


女神・リアノが、にこやかに言う。


「スローライフ……いい響きだ」


ブラック企業で魂がすり減っていた俺にとって、それはまさに魔法の言葉だった。


「それで……スキルってどうやって選ぶんです?」


「はい! まずはこちらのリストから、3つお選びください!」


光のメニューが目の前に現れた。


【取得可能スキル一覧】

▶ 筋力強化(LVMAX)

▶ 時間停止(1日10分)

▶ 瞬間移動(制限あり)

▶ 料理スキル(神の領域)

▶ 会話スキル(動物・魔物と会話可)

▶ 回復魔法(神クラス)

▶ ブラック耐性(精神ダメージを受けない)

▶ 経験値2倍(常時)

▶ 社畜魂(MPが0になっても働ける)


「……なんか混ざってない?」


「えっ?」


「社畜魂って何だよ。怖いわ」


「カイ様の精神構造に合わせて最適なものをご用意しました♡」


「いらないってそんなの!」


悩んだ末、俺が選んだスキルは――

• 時間停止(1日10分)

• 会話スキル(動物・魔物と会話可)

• 回復魔法(神クラス)


「はい、登録完了です! ではごゆっくり!」


そう言うとリアノは、また光の中へ消えていった。


……本当に行っちゃった。


俺、一人かよ。


 


* * * 


 


「よう、兄ちゃん。新入りか?」


村の入口で声をかけてきたのは、鍬(くわ)を担いだゴツいおじさん。


「まぁ、そんなとこです」


「なら手伝ってくれ! 魔物に畑を荒らされててな、急いで耕さねえと来年の収穫が危ねえんだ!」


「……え?」


「ほら、この鍬持って!」


気づけば鍬を渡されていた。

え、ちょっと待って。俺、労働しに来たんじゃないんだけど!?


「スローライフって、こういうことじゃ……」


「ぐだぐだ言ってねぇで掘れぇえぇぇ!!」


「は、はいぃぃぃ!!」


結局その日、日が暮れるまで畑仕事をする羽目になった。


――腰が、死ぬかと思った。


 


* * * 


 


「あああ〜〜っ、疲れたぁああ……!」


村の宿屋で借りたベッドに倒れ込む。


土の匂い。汗まみれの服。社畜時代とあんまり変わらなくないか、これ?


「ああ……明日こそ、ゆっくりしたい……」


そう思って目を閉じようとしたその時――


 


――ドンッ! バタン!


「誰かっ! 誰かいませんかっ!!」


玄関が乱暴に開かれる音とともに、叫び声が響いた。


「魔物がっ……! 森から、魔物が出たぞぉぉぉぉ!!」


……。


うん、これはたぶん、スローライフじゃない。


 


(つづく)



✨次回予告(第3話)


「初戦闘、いきなり死にかけた件」

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