第4話 渋谷で敵と相対す
「なに!?」
協会内部に響き渡る男の声。
向かわせた調査隊から音沙汰がない。
それを疑問に感じた職員が新たに調査隊を派遣して見つかったのは、Aランク探索者4人の死体。見つかったのは下層だ。
彼らは約束を違えるような人達ではない。
中層には居ないと判断して下層まで潜ったのであろう。だが、結果はこれだ。
「今回の原因を甘く見積っていたか。」
職員は考える。協会にとってAランク4人を失うのは痛手だ。Aランクの死に方からして、今回の相手は最低でも深層以降の魔物の仕業だ。しかも階層移動型のイレギュラー付き。
無闇に調査隊を送れば返り討ちに合うのが関の山だ。
「どうしたものか。」
放置すれば被害は拡大の一途を辿る。しかし相手の強さは未知数。【逸脱者】を呼ぶことも視野に入れるか…。
職員の男は悩むのだった。
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アキラは昨日、Dランクに昇格した。
中層に潜っても問題ないランクとなったタイミングで、職員が来た。
「アキラ君、Dランク昇格おめでとう。」
「ありがとうございます。」
「一応言っておくことがあるけどいいかな。」
「はい、大丈夫です。」
「Cランク以下は新宿ダンジョンに入ることは今はできないから気をつけてね。」
「どうしてですか?」
「どうやらイレギュラーの魔物が出たみたいで、階層移動型らしいんだ。だから上層で見つかるかもしれない。その可能性を危惧して、Cランク以下の入場禁止にしたんだ。解決するまではもう暫く待って欲しい。どうやら【逸脱者】を1人呼ぶかもしれないらしいから。」
「分かりました。」
(まぁ元から今日は別のダンジョンに行こうと考えてたから好都合だけど。)
ところで、階級について説明しておこう。
FランクLv1〜10⇒初心者、上層適正
EランクLv11〜20⇒上層適正、中層入門
Dランク⇒Lv21~30中層適正、下層入門
Cランク⇒Lv31~40下層適正
Bランク⇒Lv41~50深層適正、淵層入門
Aランク⇒Lv51~60淵層適正
Sランク⇒Lv61~70獄門層適正
逸脱者⇒Lv71~100奈落層適正
???⇒Lv101〜110神層挑戦可
米良と呼ばれていた男は多分50後半はあったんだと思う。
自身はレベル的には神層適正だけど実力詐称のため、レベルを誤魔化している。
そして、やってきたのは渋谷ダンジョン。
ここは、上層から下層までしかない小さめのダンジョンである。昼でも夜でもそこそこの人数が潜っており、下層にも時々、人を見ることがある。
渋谷ダンジョンから産出される魔鉄鋼は武器の加工に使われることが多く、非常に重宝されている。上層から取れる魔鉄鋼だけでもそれなりに有効活用されているのだ。
「山本アキラ、Dランク探索者ですね。中層までですので下層に潜ることのないようにしてください。」
「分かりました。」
アキラは探索者証を見せ、ダンジョンの中に入る。
渋谷ダンジョンには、おもにゴーレム系、アンデッド系の2種が出る。ゾンビやスケルトン、ゴーレムが上層に、グールやレイス、マテリアルゴーレムなどが中層に、下層には、デュラハンやリッチなどが居るがごく稀な事であり、基本的には上層、中層の魔物の強化版が現れるくらいである。
1層に潜ると、辺りにはチームで組んでいる探索者が何組かおり、ソロも何人か見受けられる。
上層を歩いて回ると、スケルトンを見つけた。軽くつついてみると、他のダンジョンの上層で見る魔物の強さと大して変わらないことが分かった。
下層には、デュラハンが出るみたいだから魔物のフリをするのは下層だな。
しかし、魔物のフリをする瞬間を見られないようにしなければ…。しかし、渋谷ダンジョンで高ランクの探索者は、今日は誰か潜っているだろうか。誰も居ないのなら正直、魔物のフリをする意味が無い気がするが。
でも、ダンジョンにはトラップが仕掛けられていることがある。転移トラップに引っかかって下層に来る場合もあるから、そういうのも面白そう。
変わるなら中層のどこかでやるか。
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中層を歩いている途中、何やら扉のついた場所を見つける。
「なんだここは。」
好奇心から少し開けてみる。罠が仕掛けてあっても俺を殺せるほどでは無い筈だ。
扉の隙間から中を覗くと、中は非常に暗い。机や椅子、窓が見える。ただどれもひび割れがあったりする。
床に敷かれているであろうカーペットも先がちぎれている。
ホコリが結構溜まっているようだ。
「誰か暮らしていたのか?」
長い事留守のようだ。もしかすると、知性持ちのアンデッドの可能性もあるか。
もう少し調べてみるか。
中に入ると、突然シャンデリアに灯りがつく。
入室したことに反応したのか?
まぁ、いい。これでより調べれるようになった。
引き出しやタンスの中を調べる。
黄ばんだ紙や、破けた服、食器も錆び付いており、数十年単位で使われていないようだ。
ただ、ここはダンジョンの中であり、探索者が生活のために使うとは思えない。
それに、俺以外が漁った形跡が無いことから、ここは、渋谷ダンジョンの中層の中でも未探索領域ということだ。
『ナニモノダ?』
すると、背後から渋めの男の声が聞こえてきた。
後ろを振り返ると、体をローブで覆ったスケルトンがでてきた。
「エルダーリッチか?」
中層で、エルダーリッチが現れる事はほとんどない。出たとしても淵層以降だ。
そんな強者がこんな浅いところに出るなんてな。まるで俺じゃないか。
『儂ハ帝国八騎ガ一柱、禁呪ノソローザト申ス。』
「帝国ねぇ…。」
帝国といわれても困る。そもそもここは日本のダンジョンだ。これはますます異世界と繋がってることの証明になるな。
こいつを倒すついでに魔物化でもしとくか。
「まさか、俺を人間だとでも思ったのか?」
ソローザは目を見張る。
『ソノ姿デ人デハナイノカ?』
俺は魔物化をする。顔の形も変わり、鎧も装備する。そして手元には槍が現れる。兜もつけた。
『人間ノフリ…疲レルナ…。』
『名ヲ聞コウ。』
訊ねられたので答えよう。こういう時のためだ。本音を言うと探索者相手にしたかったけど。
『我ハ深淵ノ暗黒騎士総長リュグナー。』
適当にどこかの国の名前を出してそこの所属だ〜って言っとけばいいかもな。帝国なんてのがあるくらいだ。ちょっと名前を凝っても面白そうだ。
『神国…初代総長…。』
実際にそんな国が異世界にあるかは知らないけれど、あったら面白そうだ。神国って名前にしたのは、歴史がめちゃくちゃ古そうな国ならこういう名前がいいと思っただけなんだが。
『ナニ!?【神国アステリオス】ダト!?アノハルカ昔ニ滅ンダ大国ノ最高戦力ガナゼココニ…。』
ほほー?既に亡国みたいだ。しかも総長って立ち位置は国の最高戦力か。これは面白そうだ。魔物ならよくこういう感じの奴が出てきて、主人公の仲間になる展開がたまに見受けられる。その魔物側に立つなんてな…。
『キサマノ言ウ帝国…聞イタ事モナイ。ダガ…同盟国デナイ者ガ…戦場ニテ相対スナラ…結論ハ…ヒトツノミ。』
『我ト殺リ合オウ。』
この威圧を向ければ相手も戦う選択肢しか残らないはず。もとよりここはダンジョンの中だ。戦う準備はとうに出来ている。
『儂ガ神国ノ英雄ヲ滅ボシテ見セヨウ。』
両者の覇気の衝突により部屋の崩壊した。
そして、その崩壊により、戦いの火蓋は切って落とされた。
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