第5話 イレギュラー認定

ソローザは魔法陣を素早く構築し、こちらに向けて放つ。


「呪炎。」


呪いを込めた炎か。しかも放った直後から別の魔方陣を構築している。かなり魔法の扱いに長けているようだ。


しかし、避けるまでもない。たとえ呪いが込められていようと、俺には効かない。


そして、命中した瞬間、炎は魔力へと変わり、吸収された。


『ぬ?何故だ…。貴様はアンデッドではないのか?』


どうやら俺のことをアンデッドだと思ったらしい。たしかにソローザ視点でははるか昔にあった国の初代総長って伝わっている。普通は生きてるはずが無い。アンデッドになっているはずだ、という固定観念があるのかもしれない。


『我ハ…今モナオ…生キ続ケテイル。』


ソローザは驚愕している。


正直、神国ってのがどのくらい前に存在していたかなんて知らないけれど、数千年とかそんな規模だろうか。


「ならば!【生魂封印】」


俺を中心に何やら結界が生成される。結界をよく見ると、かなりの量の魔力がつぎ込まれていた。ソローザの魔力量が激減していることがわかる。大技なのだろうか。


『児戯ニモ等シイ…。』


結界が割れて粉々になる。


「なんじゃと!?」


『貴様ノ技ハ見ルニ堪エン。終ワリニシテヤロウ。【焉獄】』


その瞬間、ソローザは忌々しい檻に閉じ込められる。そこから、急激にソローザの肉体は吸われていく。徐々に体積は小さくなっていき、黒い豆粒となった。


そして、光の粒子となって消えていった。


たった、ひとつの魔法が効かないだけで封印術に切り替えるとは判断がものすごく早いが、あの程度の封印術では俺を止めることはできないようだ。だが、まだ警戒は緩めない。そこそこの気配を放ったのだ。誰かが近づいてきてもおかしくはない。ソローザの上位互換の封印術を使うやつに出くわすかもしれない。


『ココハ…引キ時ダナ…。』


俺は馬に乗り、下層へと向かった。




■□■□■□■□■□■□■□■□■



「ねぇ、下層潜ってるんだけど魔物と出会さないんだけど…。みんなわかる?」


:分からない…。

:運が悪いだけかも?

:なんか罠踏んだ?


「さすがに罠は踏んでないでしょー。」


そんな、下層でぶらぶらと配信をしているのは、登録者1000人ほどの藍良みのりだ。


普段から下層以降を潜っているAランク探索者である。


「だってまだ下層に来てからデュラハン一体しか倒してないんだよ?」


:そのデュラハンもあっさり縦に斬られて…。

:南無阿弥陀仏…。


「ちょっと〜?私そんな悪い子じゃないよ?」



曲がり角を曲がったその時、奥の方から何かが近づくのが見えた。


「ん?何か近づいてきた。魔物かな?」


:次の犠牲者来たか?w

:大太刀こぇぇw


徐々に姿が見えてきた。

特に強そうな気配は感じない。

全身黒い鎧に大きな槍をつけ、全身鎧をつけた馬に跨っている。


「デュラハン?にしては大きい…。」


:そもそも顔の部分にも鎧あるけどどうなんかな。


「デュラハンじゃない?」


:デュラハンが槍を持っている話は聞いたことないな…。


みのりはなにかに気づき、左に避ける。


すると、後ろの壁に槍が突き刺さっていた。


「…へ?」


間一髪で槍を避けたのだ。


(全く見えなかった…。)


コメント欄もざわついているようだ。


:え?急にみのりんが避けたと思ったら壁に槍が刺さってるんだが…。


:もしかして…イレギュラー…?


:逃げてみのりん!!


さすがにコメント欄の言う通り逃げた方がいいかもしれない。これは気配がないんじゃない…。消してるんだ…。


目の前に居るはずなのにこの強さに気づかなかった。


すると、コメント欄もみのりも驚くようなことが起きた。


『ホウ…我ノアソビヲ躱スカ。感ジル気配ニソグワヌ強サヲ…持ッテイルナ…。』


:喋った!?

:めちゃくちゃ不味いのでは…。

:どう考えてもイレギュラー!!協会に報告したから早く逃げて!!


すると、奴はみのりのそばを浮いているドローンを見る。


『何カノ…記録装置…ト見タ…。』


「…!」


(ここは…逃げつつ情報を得ないと…!)


「そ、そう…。それで…あなたは誰?」


少しの沈黙の後、奴は答えた。


『我ハ神国アステリオス…初代騎士総長…深淵ノ暗黒騎士総長…リュグナー…ト申ス。』


(意思疎通が可能な魔物!?)


:ダンジョンが異世界と繋がってる説が濃厚になってきたんじゃ…。

:今のところ王国と帝国と評議国は出てきたよね…。

:神国が追加…。


「そんな騎士さんが何でここに?」


みのりんは引き気味に話しかける。


『エルダーリッチヲ…消シタダケダ…。貴様カラハ…大シタ強サヲ感ジヌガ…我ノアソビヲ躱シタ事…賞賛ニ値スル…。一度ハ見逃シテヤロウ…。』


すると、その騎士は身を翻してダンジョンの奥へと消えていった。


みのりんは汗がどっと出てきてその場にしゃがみ込んだ。


「な、何あの気配…。」


:とりあえず今日は終わろう。

:汗やばいな…。こっちまで汗だくだくだわ。

:協会への連絡は終わった。



「お、お疲れ様〜。」



その日の夜、協会は個体名【深淵の暗黒騎士総長リュグナー】を【特殊個体《イレギュラー》】とすることを発表した。


そのランクはみのりんのランクがAということから、Sランクとなった。





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ぼっち探索者、魔物のフリをする 月姫ステラ @tukihime0707

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