第2話 “正義”の軽重を問うて
『ほら、食うんだ。あ、だがちょっとずつで良い。ゆっくり、無理なく、な……』
はい、師匠……いつものように今日も過去の思い出と共に生命をいただく。薬草を煮込んだ
この
ああ、思えばチトル師匠もヴォルエイ族でいらしたな……彼等は粉薬や苦みのあるものが嫌いなので樹液や
『ばか弟子、またあの薬をくれんか。また……仕事が入ってしまったのでな……』
……私が未だ未熟だった頃、師匠は孤独に血と死に
皆が言っていた、“血に
だが……師匠は何も仰らず、ただただ戦わない"弱者”をお救いになっていた。私は今もそのご立派なお背中を追い続けている。どれ程に
『ばか弟子よ、もう戦わないでくれ……我はとうに
そう泣いておられた。しかし、殺した相手の遺体を
『そんな事も出来るのか? ふふ、ばか弟子などとはもう呼べぬなぁ……』
と喜んで下さったものだった……だから、私はどれ程に蔑まれようと、嫌われようと構わない。“成金の怪力女”が、"血に飢えた褐色”が、そして“最悪の魔女”が私を守ってくれたから。だからこそ、私は
この効能を劣化させてはならないのでこの倉庫だけはしっかりと修理している。他の部屋は
3杯めの薬湯を器に盛った所で、にわかに外がやかましくなった。
そんな事を考えたが、すぐに止めた。私は不吉な“9等星”の生まれ星を持った、本来なら生きていてはいけない存在……何をするにつけてもこの大陸に、愛しいロトシー大陸にとっては迷惑でしかないのだから
3杯めの薬湯に口をつけ、
どだどだ。そうとしか表せないような林ではなく山道を走る音が近づき、その度に増していく血の臭い。そして……死の穢れ。それらを感じて思わず小刀を抜いてしまった。やはり……私にはもうこんな平穏な暮らしは許されないのだろう
ほんの少しだけ目を瞑り、覚悟を決めて外套の前を開ける。使いたくないとは思ってはいたが、それでも捨て切れなかった小道具やあちこちに仕込んだ小刀、蔦の帯に差してある短刀がその存在を主張し始めた。お前には自分達が必要なのだ、と
「待ってくださいっ!」
「イヤですっ!! センセイっ! センセイっ! たすけてぇ!!」
ぶちっ、と下唇の端を噛み千切る。何が“先生”だ。“外道の化け物”、“気の触れた怪物”だろうさ。いや、それは間違ってはいない。私がしてきた事を考えればその通りだとも。だが……私が望んで刃を振るったのはただの1度だけだった
『アタシの代わりにさ、キミが“ひーろー”になってほしいな……って……』
『常に忌まれるが、しかし、我等は必要、だ……済まぬ、後を、たの、む……』
『私なら大丈夫。だって……私は“最悪の魔女”なんだから、ね?』
そして……皆もそうだった。『コイツだけは!』とディオーネは泣きながら力を振るった。師匠は『
だが、私は“もう”ちが――いや……“元から”違っていたのだったな。侵略者の最先鋒、敵は元より味方からも恐れられる最悪の種族、ヒト。この
心が無になり、世界から色が消えていく。これが本来の“私”の姿なのだろう。ディオーネは蔑むだろう。師匠はお嘆きになるだろう。義母上は“排除すべき敵”とお思いになるだろう。それでも、こんな私ごときでも助けられる生命があるのなら迷いは無い
「センセイっ!」
「う!? 貴様、その異常な雰囲気……アルジェラ達を殺したのはお前か!」
「すみません、どうでもいい方の名前などすぐに忘れてしまうのです。ただ、『魔女教徒は殺せ』と世迷言を吐かし、逃げ惑う民に武器を向けた連中は殺しましたよ」
3月前、そいつらは突然現れた。『魔女教徒を殺せ』と叫びながら
私はその時には珍しく
彼等の
だからといって“敵”と見なした相手を虐殺する理由にならないが……彼らはそれを持たされてしまったが故に、期待されたが故に、引き返せなくなってしまったのかもしれない。“正義”という美酒に
「貴様……!」
「貴方の仲間を手に掛けてしまった事については認めます。しかし、私はそれについて謝罪も言い訳もしません。この大陸では他者の生命を奪う行為はどんなご立派な大義名分を掲げようとも許されないのです。皆が等しく、
「……」
彼は私の言葉に明らかにたじろいだ。相変わらず古傷が『殺意』を叫ぶ。分かってはいる。仕掛けるなら今だ。だが……未だ、未だ、彼は迷っているのだ!
「自分の姿をもう一度見直して下さい。ぼろぼろの薄い服を着た非戦闘員に、貴方は今、抜き身の直剣を向けながら話を聞けと追い掛けているのですよ」
「お、俺は……ただ、話を……」
「なら、どうして武器をしまわないのですか。どうして距離を置いて、穏やかに話し掛けようとしないのですか」
「それ、は……」
びたり。古傷から止め処なく血が溢れる冷たい痛みが止まった。やはり彼は駆り立てられていただけだったのだろう。“正義の勇者”よ“悪の権化たる魔女”を殺してきてくれと、そう言われて旅立たざるを選なかったのだ
そう思った時だった。殺気。右手が自然に動き、腰帯の左2番の短刀に手が伸び――
「げ、ぐ……っ……」
左の林から現れた男の喉に逆手で投げていた。奴は槍を……それも
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