消えた見えない星の物語
浦灰洞
消えた“見えない星”が忘れようとした記憶1 紅色の呪石
第1話 過去“しか”ないのでございます
明け方から
すまないね。そう思いつつ
「
「死で
「この子の生命だけは助けてください……」
また、そんな声が聞こえるが……それは気のせいだ。私は特別な存在ではない。だから……彼等の言葉を聞きたくても、聞く事など……できはしないのだ
空を
春雨の
それに加え、
だが、私は
確かに素材の全てに金属が使われていないので防御力は無きに等しい。それに全てが
この装束に身を包み、日々自然の中で大陸の恵みをいただいて暮らす生活を始めてもう3月になる。だが……やはり病弱で貧弱な私には
ついでに右肩の傷の治りも遅い。やぶれかぶれで
32。いつの間にかそんな歳になっていた。幼い頃は“今”を生きるのに必死で“未来”など考えられなかったが……今となっては、その“今”すら無い。もう私には“過去”しか……優しい過去の思い出しか、それしか見れなくなった
今だって私なんかに触れてくれる春雨の優しさに、またしても涙が出そうになっている。嫌だな、と思っているだろう。避けたい、と思っているだろう。当たり前だ、血と死に穢れた私なんかには近寄りたくもないだろうから
無論、そんな声は聞こえない。私のただの思いこみだと、分かってはいるのだ。しかしながら……私はあまりにも生命を奪い過ぎてきた。相手の返り血を浴び、自らの血を流し、殺して、殺されそうになって……そんな事ばかりしてきたのだ
それは必要だったのかもしれないし、不必要だったのかもしれない。それはもう今となっては分からないし、当時も分からなかった。ただ1つ分かっているのは私はこの大陸に相応しくない存在だという事だけ……絶対に逃れられない、
さらさら……そう静かに歌う春雨の子守唄に耳を
長年の荒れた生活で
私は気がつかない振りをし、しかしいつでも動けるように中腰のまま、殺されるかもしれない恐怖に怯えているのであろう植物たちを見回しながらも集中する。背後を見せているが、さあ、どう出てくるか
「あ、あの……」
声は女、
「……私、ですか」
「はい……あの、その……」
相変わらず『恐怖』の痛みを感じさせながらも女は近づいてくる。だが、こそこそと、決して林の中からは出ないようにして。化け物と、そう言わんばかりに、だ
「……薬ですか、仕事ですか」
自分でも驚くくらい、冷たい口調で言葉が出た。いつもの事だったが……こうして私を化け物のように扱っているのに、この3月の間、周囲の目を憚るようにしながらも様々な用事を頼み込んでくるのである。自覚はなかったが、
「その、薬を……子どもが2日前からおなかがいたい、と……」
「お腹が痛い、だけでは何も分かりません。どこがどう痛むのか、他におかしな仕草や
「え、えっと……と、とにかくおなかをおさえて……ねつはなくて、顔色はいつもと変わらないみたいで……そ、そのくらいしか……」
「それだけでは何も出せません。魔女様や大陸公認医師ならともかく、メルーカの子供、腹痛、平熱、顔色は平常、この情報だけでは胃薬しか出せませんよ」
「出してもらえるのならなんでもイイです。ですがその……」
「構いませんよ、支払える時で。取り敢えずは病気用の胃薬とメルーカに起こりがちな
ありがとうございます。そんな声が聞こえたが、私は
どんな生命も全て1回1度の1つきりでしかなく、代えなど何処にも無い大切なものだ。その思いは幼い頃から変わってはいない。しかしそれは……歳を重ねる
他者の生命を何とも思わない者、モノと生命とを平気で秤に掛ける者、自分の生命だけは特別だと
今でも生命は大切だとは思ってはいる。だが、それは木枯らしに耐える枯れ葉のような
薬を手にし、ぐっ、と
「お待たせしました。こちらの粉薬が胃薬、1日3回までならいつでも飲ませても大丈夫です。この
私は春雨が降ってぬかるんだ道に清潔な布を敷き、そこに薬を置いた。正直に言えばこれで良くなるのであればそれに越した事はないのだが……メルーカ族は消化器官があまり強くない種族だ、心配ではある
「あ、ありがとうございますっ! このお礼は、いつか必ず……」
「それは結構です。私は“外道の化け物”、“気の触れた怪物”……そうでしょう」
「え……えっ、と……」
「さようなら」
私は話を切って家の中に入る。古く傷んだこの家はまたも雨漏りをしていた。さてさて、これはまた直さないとだな……
疲れ切った心中の言葉の響きとは裏腹に、普段はぴくりともしない口角が少しだけ上がっていた。春雨ちゃん、あまり困らせないでくれないかな。また……あの子の幻影が見えてしまっているじゃないか
『コレが『ハルサメ』? イヤ、キリじゃんさー……え? それじゃダメなのー?』
えへーっと笑う、亡き親友ディオーネが……今日もまた春雨の中に見えていた
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