第18話

 全てを飲み込むような黒い火炎を間一髪で跳び避ける。

 どうにか剣を当てるが、それも竜の肌を少し傷つけるだけでまるで手ごたえが無い。

 気力を振り絞り剣を握り締める。

 だが、リュグナーの魔力は収まらない。黒い煙を噴き上げ一層力強く立ちはだかる。

 吹き抜ける黒い風に、確かにリュグナーのものとは違う何かを、レオは感じた。

 それはリュグナーの意志ではなかった。

 吸収された元部下たちの、声なき悲鳴だった。

「......そこにいるのか」

 レオは、剣をゆっくりと担ぎ、目を閉じた。

  ――レオ、隊長……

  ――命令を、最後まで……

  ――俺たちの記憶……お前に、託す……

 声が、骨が、剣が、レオの魂に触れた。

 かつて共に戦った兵たちの想いが、死の彼方からレオに還る。

 燃えるように、力が集まっていく。

 レオの背から風が吹く。

 剣に、かつての仲間の気配が宿った。

 それは刃を走るような切れ味であり、魂を撫でるような温もりだった。

「……俺はお前たちの誇りを、忘れたことはない」

 黒い炎を輝く剣が切り裂いた。その体に流れているのは、かつて部隊を支えた者たちの魂。

「俺の名は、レオ・ヴァレンティア。騎士として! 皆の思い引き受けた!」

 剣は巨大な光な柱となり、砦ごとリュグナーを断ち切った。

 一瞬の静寂の後、リュグナーの魂が、黒く、呻きながら、弾けた。

「ぐああああああああああ――――――ッ!!」

 爆風。

 リュグナーの全身が黒い霧となり砦の天井を吹き飛ばす。

 吹き抜ける風の中、レオは静かに剣を鞘に納め、まだ煙の残る夜空を見上げた。

「終わったか......」

 吹き消える霧の中で、星に交じり仲間の魂が一瞬光って、消えた。

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