第17話

 重苦しい静寂を裂いたのは、リュグナーの黒剣だ。

 剣は夕影のように伸び床をえぐりながらレオに迫る。

 だがそれは虚しく空を裂く。レオは剣を担ぎ遥か高くに跳び避けた。

 リュグナーが指を鳴らす。

 歪んだ円陣が地を這い、床を突き破って這い出る黒装束の兵たちが。レオの剣を食い止めた。

 鎧をまとい、顔のない兵士たち。動く死体。

「“フェリクス兵”――意思を持たない不滅の兵、いや兵器だな」

「ならば一対一と変わらんさ!」

 剣を大きく振り回し打ち払う。

 土煙と腐臭を巻き上げて、死霊兵が一斉に襲いかかる。

 剣が閃いた。

 肉を裂き、骨を砕き、無数の兵が宙に舞った。

 死体を割りながら黒い線が背後より迫る。

 レオは一転して黒い線に剣を合わせ、火花を放ちながらリュグナーの元へ駆けた。

 勢いのまま、鍔競り合いの形から、腕ごと顔を引き裂いた。

「終わりだリュグナー」

 呻き声を上げ床を転がるリュグナー。術を手繰る腕はもう無い。決着はついた。はずだった。

「まだ終わらんぞ! レオ!」

 もう一対の隠し腕が印を結び魔術を放つ。

 黒い霧がリュグナーの身体に流れ込み、彼の輪郭が、異形へと膨張していく。

 皮膚が割け、骨が変形し、複数の顔と手足が混じったような継ぎ接ぎの竜がそこに現れた。

 暗い目の中、未だリュグナーの魂は黒く燃えている。

「私も異形なのさ。レオ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る