第13話
セレスは彼の胸元に手をかざし、呟いた。
「《魂縫留(リゼメリド)》」
淡い青い光が、指先から糸のように伸び、刺客の額へと注がれる。
死にかけた魂が、肉体から滑り落ちるのを縫い止める術。
怪訝そうに見つめるレオにセレスは語る。
「魂は記憶はかすれども、噓は付けません」
彼女が懐から黒く染まった小瓶を取り出す。
中には乾いた骨の粉――死者の脊髄を砕いた媒介。
それを撒いて、式文を走らせる。
「汝の記憶を呼び覚ませ。汝の恨みをさらけ出せ」
陣が淡く光り、視界に霧のような靄が立ち込める。
次第に、それは“映像”へと姿を変えていった。
廃墟のような建物。積み上げられた無数の死体。
中央には玉座めいた椅子に座る白銀の鎧の男。
顔は影に覆われ、声だけが響く。
「……記録を取れ。
死体さえ集めればいくらでも増やせるとはいえ重要なサンプルだ」
その声の先、術者たちが魂を死体に押し込んでいる。
黒い袋から、まるで物のように取り出された“魂の結晶”。
「《フェリクス兵》計画、次段階へ移行。
次はもっと多くの騎士の死体を集めろ。以前のように限界を見誤り死体を損なうことの無いようにな。
強い魂、肉体ほど、“戦闘反応”が高い。
抵抗? ――かまわん。
魂も、肉体も、割って、組み直せばいい」
視界の端で、巨大な棺が次々と積まれていく。
“戦場で死亡報告された者の遺体”、それが兵器の素材だった。
映像が靄とともに霧散する。
セレスは静かに立ち上がり、式具を片付け、記録を書き取る。
「映像は粗いですが、確かな証拠になりますが......」
「砦だ」
レオは震え、霧の跡を睨む。
「リュグナーはずっと俺たちが死ぬのを待って......砦で死体を集めてたんだ」
剣を担ぎためらいなくドアを開けた。
「......まさか倒しに行くというのですか?」
「ヤツは鼻が効く。首都に伝えている間に逃げ出すだろう。先に証拠を集め潰してやる方が確実だ」
「そうではなく、無茶だと言ってるんです」
「死体を集めてるのなら俺も潜り込めるはずだ」
「まさか......」
「セレス。お前も協力しろ。そのぐらいの義理はあるはずだ」
セレスは、静かに記録帳を閉じた。
「……まったく、無茶にもほどがありますよ、騎士殿」
「やめる気はない」
レオは背を向けたまま言った。
「例え一人でも行くのでしょう?
――魂の記録係として、見逃すわけにもいきませんね」
微かに、笑みとも嘆息ともつかぬ声を漏らしながら、ふわりと黒い法衣の裾を翻した。
「記録帳の余白が埋まっていくの、結構楽しみにしてるんです。
あなたの戦い、まだ途中のようだ」
レオは黙って頷いた。
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