第12話
――足音。
鋭く、揃った動き。宿の廊下を、明らかに“戦い慣れた足取り”が近づいてくる。
レオが即座に鞘に手を伸ばし、セレスは影に溶けるようにランプの灯りの裏側へ身を引いた。
「……見つけられたな。カイ自体がつけられてたか」
「あらどうしましょ」
「生きているならもっと真剣に動揺しろか?」
ドン、と部屋の扉が蹴り破られる。
木片が飛び散り、黒衣の刺客が三人、無言のまま雪崩れ込んできた。
先頭の男が一言だけ呟く。
「……裏切り者の口を塞ぐ」
鋼の短剣が光る――狙いは、まだ床にいたカイの心臓。
「させるかっ!」
レオの声と同時に、鞘付きの剣が横一線に振るわれた。
刺客の刃が逸れ、体ごと吹き飛ぶ。壁に叩きつけられ、呻く間もない。
「……っ、騎士……」
もう一人が踏み込んでくる。レオはそれをかわし、膝を低く落として剣の柄で喉元を打ち抜いた。
“この身体は、剣を覚えている”
――戦いは数十秒で終わった。
最後の刺客が逃げようと背を向けたその瞬間、セレスの術式が部屋の床に展開された。
「《縫魂封(デバリザイン)》」
黒い糸のような魔法が床下から立ち上がり、逃げかけた刺客の足元に絡みつく。
バチン、と音を立てて動きが止まり、そのまま床に沈み込むように気を失った。
静寂。
レオが剣を鞘に戻し、乱れた呼吸を整える。
セレスが、部屋の奥の影から姿を現した。
「だから言ったでしょ? あなたの身体は、剣を振るうためのものだと」
誇らしげな笑顔を浮かべるセレスに、レオがやや呆れた目を向ける。
「その割には、しっかり奥に隠れてたな」
「私は術師ですから。剣で前に出るのは騎士殿の役目」
「便利な立場だな」
「術師ですから」
セレスは涼しい顔で記録帳を取り出し、刺客の様子を観察しながら言った。
「しかしこの騎士......死体ですよ」
青白い顔を見て呟きながら、彼女の手は無意識に腰の護符を撫でていた。
「……さて、これで確信が持てましたね。“あの男”は既に我々を消そうとしている」
レオはうなずき、足元の倒れた刺客を見下ろす。
「今度は、俺が消しに行く番だ」
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