第7話
ザラン砦へ向かう揺れる馬車の中で、セレスは脚を組んで記録帳に魔術符を走らせなる。
「ザラン砦だが……騎士の記録が残っているかはわからんぞ」
「なら、探しましょう。構造的な証拠でも、語られた逸話でも。
あなたのような魂が、名もなく埋もれていたなど、考えにくいですから」
レオは小さく鼻を鳴らした。
「……この身体で、それを辿るのも妙な話だな。
剣を振っても、筋肉が応えてこない。腕が、剣の重さを“覚えていない”」
「ええ、でしょうね。体が違えば、当然です」
セレスはあっさり肯定する。
「でも、身体よりも魂が剣の振り方を覚えているはずです。
あなたがドラゴンに挑んだとき、剣は迷いなく振るわれていた。
――だから私は蘇生したのです」
レオの表情がわずかに動いた。
「……あれは、咄嗟だっただけだ」
「咄嗟であそこまで戦えるのが、“騎士の中の騎士”というものですよ」
「やめろ。そう呼ぶなって言っただろ」
「事実ですから。
それにあなたの体――“ただ剣を振り回すだけ”なら、そこらの騎士なんて目じゃない上質な構成なんですよ?
攻撃速度、可動域、関節負荷の耐久限界、全部私が調整して――」
「お前、本当に俺を人間だと思ってないだろ」
「違いますよ。あなたは、魂としての“人間そのもの”です。だからこそこの器は必要だった。
誰よりも騎士らしい魂に、ただの寄せ集めでは応えられませんから」
セレスはさらりと笑った。
「だからあなたは、気にせず堂々としていればよいのです。
“この姿で騎士を名乗るのは恥だ”なんて考える必要はありません。
あなたの魂は、見ればすぐにわかります。“剣を構える姿”だけで、誰もが納得する」
レオは少しだけ黙り込んだ。
窓の外に、木立の影が流れていく。
「……お前の言葉は......腹が立つ」
「褒めてるのに?」
「褒め方が嫌味なんだ」
「それはたぶんあなたが素直じゃないからです」
にっこり。セレスは涼しい顔のまま、記録帳に「騎士殿:自己評価低」と走り書いた。
「……やっぱりうるさい」
「はいはい、では静かにしてますね。でも、騎士の中の――」
「言うなっ」
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