第5話
レオが静かに呼吸を整えるのを待ってから、セレスは再び口を開いた。
「もし……あなたがその姿をどうしても受け入れられないというのなら」
彼女は視線を落とし、わずかに眉を寄せる。
「――“元の身体”を再現する方法もあります」
レオが顔を上げた。
「……なんだと?」
「あなたの現在の肉体は、素材の保存状態と魂との適合性を優先して選んだものでした。
加えて――私が好ましいと感じた容姿で組んだのも事実です」
さらりと、セレスは言った。
まるで「家具の配置を好みで決めた」とでも言うかのような口ぶりだった。
レオの口元がぴくりと動く。
「……お前の趣味で俺の顔と体を決めたのか?」
「はい。丸焦げでしたから。ですが、魂がきちんと収まる構造としても理にかなっていました。
とはいえ、あなたの望む姿――つまり“本来の騎士レオ”に戻すための再構築も不可能ではありません」
セレスは一歩、鏡の脇にある机に近づき、開かれた帳面を指で押さえた。
「あなたの過去の情報――顔の輪郭、骨格、皮膚の質、声帯の構造、剣の持ち手、呼吸の癖。
それらを拾い集めていけば、かつての“あなたの器”に、再び魂を納めることも可能でしょう」
「……拾い集めていけば?」
セレスは、微笑を含まぬ真顔で頷いた。
「はい。つまり、あなたが誰だったのかを――私たちが辿る旅です」
レオは言葉を失った。
過去を辿る。それは、かつて“死んだ”自分を暴き返すことだ。
だが、それが――
今この、つぎはぎの体を終わらせる方法であり、同時に「騎士であった自分」を再構築する旅でもある。
過去を辿ることで、“かつての誇り”に戻れるのか。それとも、“今の自分”こそが騎士であるという証になるのか――
選ぶのは、今ここにある魂自身。
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