第5話 別れの言葉
毎日同じ場所で人形劇をしていたおじいさんを見かけなくなってしまった。
「ねぇ、いつものおじいさん知らない?」
「みてない。」
「俺も。また見たかったのに……」
周りの友達に聞いても誰も行方を知らなかった。
「ねぇ。門番なら知ってるんじゃない?」
「確かに!確認しにいこ!」
別れの言葉もなしにどこかにいっちゃうなんて悲しい。
「門番さーん!」
「どうした?嬢ちゃん。」
「あのね、旅人さん知らない?おじいさん。」
特徴的なことが思い浮かばない。
「あ!人形!」
「え?」
「おじいさん、人形持ってるの!白い髪の緑の目の人形!」
おじいさんは人形を捨てる人ではないと思う。
絶対に旅のお供に持って行っているはずだ。
「あぁ。あのおじいさんか。数日前にこの街を出たよ。旅人なんだろ?突然いなくなったところで、普通のことだよ。」
「お別れの言葉、言えなかった。」
「多分おじいさんなりの気遣いだよ。もう一度会える保証なんてないんだから、別れの言葉は言わない方がいいと思ったんじゃない?」
確かにおじいさんは私が大人になる頃には生きていないかもしれない。
それでも別れの言葉くらいは言わせてほしかった。
「またね。おじいさん。」
私はおじいさんの向かった方向を見ながら静かに別れの言葉を言った。
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