第2話

寮に帰った私たちだったが、今日一日中リユーカがそっけなくてどうしたのかと思って、様子を尋ねようとしてたときだった。


「ねねね、ミュエ!私……恋したかもしれない」


そう少し赤らんだ顔で私に報告してくるリユーカはまさしく、恋する乙女そのものだった。リユーカはどちらかといえばキレイ系の顔をしているけど、今ばかりは可愛いと思ってしまった。けど、リユーカの好みに当てはまるようなイケメンは、あのクラスにはいなかったように思う。それとも私の審美眼的なものがおかしいのかな。


「え……リユーカって面食いじゃなかったっけ?」


びっくりしてそう尋ねると、頭を振って否定された。


「それが、全然好きになった人違ったの。たしかにカッコよかったけど、私の全然タイプじゃなかった。それなのに、一目惚れしちゃった……」


「一目惚れ!?え!?どの人!?」


イケメンかもしれないが、一目惚れなんかしたと言われて私は混乱した。恋をするのが悪いことではないけど、卒試は恋を体験することによって始まるのだ。何が何でも早すぎやしないか、と思う。初日で恋を体験できるなんて、リユーカは才能があるんじゃないか、と思う。それに、リユーカはもう卒試に向けて香水を作るだけになってしまう。私はちょっと焦った。


「ミュエの隣の席に座ってた黒髪の男の子の友達のミヤコって人。日本でいうメガネ男子っていうやつ?あ、あと手がすごい綺麗だったの」


「手?顔ばっか見てんのかと思った。てか私その黒髪男嫌い。アイツ私の舌の好みを全否定しやがった」


これであの黒髪男が好き、って言おうものならリユーカでも全力で止めるところだった。初対面の相手に対して、馬鹿にするような奴はろくでもないからだ。


「ええー?聞き間違いじゃ無い?」


「いやそんなことない。ピュピュアグミ好きだって言ったら、ガキじゃねとか言ってきた」


そう言うとリユーカはうーんと返答に困ってるようだった。


「……まぁその男の子は置いといて。でね、でね。恋ってすごいの。全身がぶわってお花みたいに開いて、その人のために可愛くなりたい、とか全力で好きになってほしいとかそういう感情でいっぱいになるの」


「へー。私には今日1日じゃそんな感覚、なかったなぁ」


正直、恋を体験したことない私にとってそんな話を聞いても実感がわかない。可愛くなりたいって思うのは、まぁわかるけど。ほんとうにそうなるんだろうか、っていう疑問でいっぱいだ。しかも花みたいに開くってなんだ、て思う。


「でもこれだけは言える。恋は幸せな気分を味わうことができる物なんだって」


そうなんだ、と心の中で思う。よく恋は幸せだけじゃないって聞くから、リユーカは幸せな気持ちでいっぱいになってくれて良かったと思う。親友が辛いって言ってるのは見たくないからね。


「私の場合は、ベリーみたいな甘くてすっぱくてキュンとするような…でもいい香りだったなぁ。ミュエも恋したらどんな匂いだったか教えてね」


ベリーね。私はベリーと言えば、甘いってよりも酸っぱいイメージがある。味だって人によってこうも感覚が違うなら、恋の感覚なんてもっと違うんだろうなって思う。


「うん、わかったー。でも、私は恋を体験するまで結構時間かかりそうな気がするよ」


「焦んなくていいと思う!あ、話逸れるけど、部活決めた?やっぱ高校といえば部活っていうイメージが漫画であるの!」


「私は、茶道部?に入ろうかなって思ってるよ。なんか毎回お菓子出るらしいし」


私は和菓子だろうが、なんだろうがお菓子を食べられればいいのだ。食第一主義としては、ここは譲れない。


「完璧にお菓子目当てじゃん。茶道はものによっては厳しいって聞いたよ?」


「お菓子があれば頑張れる!……と思う。リユーカは?」


多分、漫画関係の部活なんだろうなと思いつつも一応聞く。


「もちろん、漫画研究部!今日昼休みに同じクラスの子から、情報もらってきた」


「はや。え、いつもらってたの?全然わかんなかった」


「授業の間、かな?漫研って略すらしいんだけど、漫研は漫画描いたりもするし、読み合いとかしたり、普通に売ってる作品の感想も言い合ったりするんだって。まさに私の望んでた環境そのもの!!」


「そう……よかったね」


こうして私たちの宮ヶ丘学校における初日は無事に終わったのだった。

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