卒業必須条件が恋をすることなのに、全くできません!

蜜りんご

第1話

 私の名前はミュエ、ミュエ=ドルフェリー。ちょっと強すぎる自分のオレンジ色の癖毛に悩む、16歳の乙女。今年17歳を迎える私たちは、リルムーア魔法魔術女学校の700期生の7年生である。そんな私が通うリルムーアでは、開校以来の卒業試験絶対のルールが存在する。それは、自分の恋の香りのする香水を作り上げること。


ひとえに恋と言っても、人によっては甘いふわふわした砂糖菓子のような気持ちしか抱かない人もいるし、ビターチョコレートのように苦い思いしかしない人もいる……らしい。私はまだ、恋を体験したことがないから恋がどんなものだかまだわからない。だけど、きっと幸せなものなんだろう、そう信じている。


この卒業試験は期間が設けられており、7年生の5月から8年生で卒業式が行われる前の月の7月までが卒業試験を受けられる期間となっている。この間に私たちは、調香室と呼ばれるところでいろいろなものを掛け合わせ恋の香りを錬成する。このために私たちは、世界中のありとあらゆるところに行く権利が有されていた。


「ねぇ、リユーカ。恋を探すためのとこ、どこがいい?」


リユーカは私の親友で、たまたま寮の同室だったことから関係は始まった。リユーカと仲良くなったキッカケは、私の髪の毛を褒めてくれたところからだった。リユーカは私の癖毛に反して、青いストレートの髪の毛を持っている。そんな経緯で仲良くなった私達は、この恋の旅は同じところに行こうと約束をしていた。


「ミュエがなんでもいいって言うならもちろん日本がいい」


「うーん、だよねー。そう言うと思った」


リユーカは日本の漫画、とくに少女漫画が好きで自分で絵を描いたりもしている女の子だ。だからきっと日本に行く、というのは分かりきっていた。


 私たちの担当である魔法学校の先生にこのことを伝えると、東京にある寮付きの宮ヶ丘高校という高校の2年生に転入することが決定した。リユーカは泣いて喜んでいた。私ももちろん、嬉しくなった。


それからパッキングをして、必要なものをかき集めて日本の首都である東京に着いた。東京は人が多くて、私達が住んでいるリゼーレの500倍くらいの人がいるんじゃないか、と思ったくらいだ。


そして、宮ヶ丘高校の寮に着いた私たちは2人してわくわくしていた。なぜなら初めて日本の制服に袖を通すからだ。日本にも制服という制度があるようで、ここではチェックのスカートにブレザーというスタイルを取るようだった。


そしてリユーカの見ていたマンガだと、女子はシャツにリボンをするからそうなんだろうって思ってたんだけど、宮ヶ丘高校は女子もネクタイを締めるみたいだった。2人で制服を着てみて、感想を言い合う。


「どう?ミュエ!私、日本の学生みたい?」


「リユーカは美人だからなぁ……日本人ぽくは無いかなぁ」


「……はは、喜んでいいのかどうなのかわかんない!」


寮のベッドに入って、2人して明日からの学校生活のことを想像する。


「ねぇ、リユーカ。明日楽しみ」


「ミュエエエエ!私緊張してきた……恋、見つけられるかな?」


「リユーカならできるよ……てか、リユーカが緊張するなんて言ったせいで、私まで緊張してきたじゃん!!」


リユーカは結構緊張とかしないタイプだったし、リユーカが緊張するなんて言い出して私は焦っていた。でも、明日のことで寝れないのは本当だった。まるで遠足前の時みたいだなぁ、なんて思っていた。


「でも、そんなこと言ってないで寝なきゃ!でも本当明日楽しみ……」


「私も!!何より日本でも制服を着れるなんて思っても見なかったから、ほんとに楽しみ!!」


「ね!でも明日早く起きなきゃだから、寝なきゃ。おやすみー」


そう思うが寝れなかった。それはリユーカも同じみたいで、ベッドからわさわさと寝返りを打ったりなんだりしたりする音が聞こえた。



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 翌日、私たちは宮ヶ丘高校の体育館の中、全校生徒の前で紹介をされていた。


「では、2年7組にこれから所属する2人の紹介です。それでは、ドルフェリーさんとミッツェレンさんお願いします」


「ミュエ=ドルフェリーです。リゼーレ出身ですが、日本語は喋れます。2年7組の皆さん、よろしくお願いします」


「リユーカ=ミッツェレンです。私もリゼーレ出身です。日本の漫画が好きで、日本に来ました!よろしくお願いします」


リゼーレとは、私たち魔族の住まう世界の入り口が多く存在する国の名前だ。もちろん、東京にもあるが一番多いのはリゼーレともいえる。集会が終わって、私たち2人は担任の女の先生から2年7組に案内された。


「担任の佐々木純子と言います。気軽になんでも相談してくれると、嬉しいです。じゃあ2人の紹介を改めてしますね。じゃあドルフェリーさんから」


「ミュエ=ドルフェリーです。日本で好きな物はピュピュアグミです。これから仲良くしてくれると嬉しいです!!」


ピュピュアグミというのは日本のお菓子で、全部が三角形の形をしている美味しいグミだ。リゼーレとか、魔法界には無かった。ピュピュアグミはフルーティーさが売りのグミで、噛むとジューシーさが口の中に広がり、とっても美味しい。日本に来てからハマったお菓子の一つだ。


「はい、ではミッツェレンさん、どうぞ」


「はい。リユーカ=ミッツェレンです。小さいときからジャパニーズマンガが好きで、特に少女漫画が好きでソルトシビリアンというマンガが好きです」


私たちは2年7組の人たちから拍手を受け、出迎えられた。


「じゃあ2人の席は窓際の2つだから、自由に座ってください」


先生からそう言われ、席に着くとチャイムがなり自由時間になる。


「ピュピュアグミが好きとか、ガキかよ」


何だこいつ。私と同じ癖毛のくせして。思わずそう、顔に出てしまった気がする。人の趣味に文句言うな、と思う。


「別に何が好きでも良くない?りゅーせー」


文句を言っていた男の友達と思しき男がそう宥めていた。この宥めていた男のポイントは上がったが、文句を言っていた男のポイントは下がる一方である。


「ま、そうだな」


とりあえず、こいつの顔は覚えた。りゅーせーと呼ばれた男は、黒い癖毛を持ち、そして背がでかい。これが奴の特徴だった。そして私は許さない、と誓った。そしてこいつが私の初恋を奪うだなんて思いもしなかった。

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