第3話

 翌日、私は茶道部で体験をしてみようと思って、クラスの女の子にいつやってるのかを聞いてみた。そうしたら、今日は体験入部を行ってるらしいとのことだった。一階の図書室の隣の和室でやってるらしいから、放課後に行ってみた。


行ってみたはいいけど、私は無機質なドアを前にして、入るかどうかを躊躇していた。もしやってなかったら、どうしよう。そんなことを思いながら私は、思い切ってドアノブを回すことにした。


「失礼します……今日って体験できますか?」


「あ!こないだ集会で転校してきたって紹介されてた子だよね?入部希望?」


和室、と呼ばれた部屋に入ってみると独特な匂いがして、これが線香の匂い?と思う。お線香の匂いはどこか上品で、だけど植物の匂いがする。そんな香りだった。出迎えてくれた人は優しくて、サラサラの黒髪をポニーテールにまとめていた。癖っ毛の私からしたら、羨ましいばかりだ。


「はい!あ、でも今日は無理ならまた日を改めて来ます」


「全然いいよー!みんなー!入部希望だって!……あ、今は準備の時間で、茶道の経験とかある?その前に自己紹介か。私の名前は清水波瑠。3年で部長やってます」


「私の名前はミュエ=ドルフェリーです。よろしくお願いします。茶道の経験は全くないけど、入部したいです!あ、えと、頑張ります!」


和室は靴を脱いで入るみたいで、靴を脱ぐ習慣がない私たちにとっては変な感じだった。寮でも思ったけど、やっぱ慣れないなぁと思う。初めての和室に心躍らせていると、私は昨日許さない、と誓ったあの黒髪男がいた。


なんであいつがここに、と思うがきっとあいつは部員なんだろう。でも今更部活に入らないとは言えないし、こんなことで和菓子のチャンスを諦める気はない。


「まずは、食器を運んだりして準備をするんだけど、もう準備できてるから……いいかな。先生もいらっしゃってるから、先生に挨拶してもらおうかな」


そう言われた先には、着物をきた初老の女の人がいた。着物は薄い紫色と青の中間のようなパステルブルーで、私は初めて着物を着ている人を見たからだとは思うけど、着物をさらりと着こなしている先生はさすがだなぁと思った。


背筋をピシっと伸ばしてシャンとしている、という表現が正しいのかな?そんな感じの姿勢をずっと保っている茶道の先生はすごいな、と思う。


「伊藤先生、この子入部希望なんですけど……」


部長の清水さんにそう紹介されたので、急いで自己紹介をする。


「あ、ミュエ=ドルフェリーです」


「伊藤みち子です。あなたの髪の色綺麗ね」


「えっ……ありがとございます!!」


私の髪の毛は大分オレンジ色が強いのだが、今まで褒められたことはなく赤毛だ赤毛だ、といじられる方が多かった。だからこそ、嬉しくなってしまった。


「えー先生!コイツの髪プードルみたいだし、綺麗じゃないっすよ」


だけど、またこいつに悪口を言われた。やっぱりこいつは認められない。しかもプードルってなんだ。私の髪の毛はたしかに巻きが強いが、あそこまで強くはない。プードルは可愛いけど、それはあのきゅるんとした目とかがあってこそだと思ってる。私の顔はそんなに可愛いわけではないし、プードルのような可愛さはない。


「こら、影井くん。人の容姿はけなしてはいけません!」


そう思っていたら、先生がこの黒髪男を注意してくれた。先生ありがとう、と思うと同時に黒髪男への苛立ちメーターは上昇した。そしてこいつはカゲイっていうのか。よし、覚えた。


「はぁーい」


ムカツク。そう思うが私だってもう17歳。こんなことくらいで、一々苛立つほど子供ではない。



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そこから茶道部の活動は始まったんだけど、一つ大きな問題に直面した。


「っ……!!」


正座で足が痺れて、足が超絶痛いということだ。周りには部員が私含めて6人いたんだけど、皆しらーとした顔をしていた。正座は初めてしたけど、こんなにつらいものなんて知らなかった。先生が今日という日に対するなんかお話をしてくれているんだけど、足が痛くて何も入ってこない。


「……では、清水さん。挨拶よろしくね」


「はい。気をつけ、礼」


気をつけは知っている。姿勢を正すという意味だ。痺れて痛い足をなんとか隠しながら、背筋を伸ばしてお辞儀をする。正直やり方がわからなくて、周りをチラチラ見てしまったのは許してほしい。


「よろしくお願いします」


そこから茶道部の活動が始まるみたいだったけど、私は動けずにいた。


「うわ、お前足真っ赤すぎ。やば」


そうカゲイに笑いながら言われて、よりムカついたし、なにより足がじんじんしてびりびりして動けないから何もいえないのがくやしかった。


「初めてはしょうがないよ。メテオくんだって初めてのときこんなだったよ?それにほら。私も足真っ赤だし……んーでも、ミュエちゃんは色白いからより目立っちゃうのかもね」


部長の追撃もあり、カゲイは大人しくなった。にしてもメテオってなんだ。下の名前だったらそうとう珍しくないかと思う。


ちなみに初めて食べた和菓子はとてもおいしかった。もちっとした皮に包まれた、しっとりとした餡。あんこを食べるのは初めてだったけど、これぞ和菓子という印象だった。先生のように、上品さがあるけどしっかりお菓子としての甘さをもっていた。


匂いはジャムみたいな砂糖の匂いじゃなくて、あんこの元となる豆というかの匂いがした。ジャムも砂糖で作るし、あんこも砂糖で作るのになんでこんなに匂いが違うんだろうと不思議に思ったことをここに記述しておく。

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