第6話

 毒の爪、《ポイズン・クロー》。

 前代未聞の融合スキルを手にしたカイルに、ジーンは満面の笑みを向けた。


「……マジで、これは……いけるかもしれねぇ!」


 その目には、確かな自信と期待が宿っていた。

 来週の“教師戦”――それは卒業を左右する一大試練。

 今までは漠然とした不安があった。だが今は違う。


 カイルが“異常な力”を持っていることが、チーム全体の光になっていた。


「よし、奥のエリアまで行って、今日は一旦帰ろう」

「うん。もう十分がんばったけど……もう少しだけ、ね」


 そうして三人は、さらに森の奥へと歩みを進めていった。


 やがて、草木が高くなり、霧が立ちこめる薄暗いエリアに差しかかる。


 カイルが茂みをかき分ける――その瞬間。


 そこに、“いるはずのないもの”がいた。


 ――黒い巨体、刃のような背びれ。

 全身が鋼で覆われ、四足の脚で地面を砕きながら歩く。

 目は赤く、鋭い牙がギラリと光る。


 モンスター図鑑にも、“上級危険種”としか書かれていない、名もなき怪物。


 「……っな、なんで……なんでこんなのが、森に……?」


 ミリアが声を震わせる。ジーンも言葉を失っていた。

 思考が、止まった。


 次の瞬間、魔物が地面を蹴った。


 ジーンの目の前に飛びかかる――!

 巨体に押し倒され、そのまま鋭い牙がジーンの喉元を狙う!


 「ジーンッ!!」


 ガキィィン!!


 剣が魔物の背中に突き立つ。

 振り返ったのはカイル。咄嗟の一撃だった。


 だが、魔物はカイルへと標的を切り替える。

 鋼鉄製の尻尾がうなりを上げ、カイル目掛けて叩きつけられた!


 「くっ――!」


 寸前で身をひねり、なんとか直撃は回避する。

 反撃の一閃を放つが――


 「……ッ!? 尻尾で……ガード!?」


 攻撃は尻尾で受け止められ、直後、鋭い爪がカイルの腹に直撃。

 吹っ飛ばされたカイルの体が地面を転がり、木に叩きつけられる。


「カイル!!」


 ミリアが即座に魔法を放つ。


 「《ヒール・リーフ》!!」


 淡い光がカイルの傷口に染み込んでいく。

 激しい痛みに歯を食いしばりながら、カイルはゆっくりと立ち上がる。


(これを逃したら、ジーンが……ミリアが……)


 全身の痛みに耐えながら、剣を構える。

 一瞬の呼吸の後――カイルが爆発的な速度で敵の懐へ飛び込む。


 「うおおおおおッッ!!」


 鋼の腕へ、一閃を叩き込む。

 刃は肉を裂き、腕の半分を切断することに成功――!


 だがその直後、背後から鋼鉄の尻尾がカイルの背中に激突した。


 「……ッがッ!!」


 衝撃音と共に、カイルの体が宙を舞い、背後の大木に全身を叩きつけられる。


 木の根元に倒れこむカイル。

 その眼前には、ゆっくりと近づく魔物の巨体。


 ジーンは地面に這いつくばり、ミリアは攻撃魔法を持っていない。


 誰も――止められない。


(……一か八か。やるしかない)


 カイルは震える足で立ち上がる。


 そして集中する。


 あのとき、確かに尻尾の軌道、重さ、鋼の構造――全部が体に焼き付いていた。


 無限の中心へと意識を沈める。


 一つ、鋼の螺旋のような光が、ツリーに現れる。


 ――新スキル名:

 《鉄尾(アイアン・テイル)》


 現実に戻ったカイルの背後で、尻尾のような鋼の構造体が形成される。

 同時に、右腕が再び毒の爪へと変化する。


 魔物の足元に滑り込み、毒の爪を突き刺す。

 魔物が呻き、体勢を崩した瞬間――


 後ろから鋼の尾が一閃。


 ガッ!!


 魔物の頭を打ちつけ、魔物はよろめくように後退――そして、逃げていった。


 残された三人は、その場に座り込んだ。


「……う、嘘……カイル、今……何したの……?」

 ミリアの声はかすれていた。


「……見間違いじゃねえよな……今の、尻尾……お前の、だったよな……?」

 ジーンが、放心したまま呟く。


 カイルは一歩だけ、ふらつきながらも立っていた。


 毒の爪。鉄の尻尾。模写し、融合し、創造するスキルツリー。


 それはもはや、“既知の分類”を逸脱した力。

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