第4話

戦闘の余韻が森に消え、カイルたちは再び静かな時間を取り戻していた。

 だが、カイルの中には燃えるような直感が灯っていた。

 ――自分の力は、“模写”できる力だ。

 ――ならば、それを自ら引き出せばいい。


「……ちょっと、行ってくる」


「えっ? どこに? まだ傷も癒えたばっかだよ!?」

 ミリアが慌てるが、カイルは剣を背負い直し、森の奥へと歩き出した。


「試したいことがあるんだ」


 やがて木々が開け、薄暗い沼地にたどり着く。

 そこに潜んでいたのは――

 長く黒光りする鱗の胴体、異様に鋭い牙と赤い瞳を持つ魔物スリザヴァイン


 蛇型の下級モンスターでありながら、毒を操ることで知られた魔物だ。


 ジーンとミリアが背後に追いついたとき、カイルはすでに剣を下ろし、無防備に腕を前へ突き出していた。

「ちょ、お前なにやって――!?」


 ――ガブッ!


 スリザヴァインが容赦なく、カイルの腕に噛みついた。


「カイルッ!!」


 ジーンとミリアが悲鳴を上げる中、カイルは眉を歪めながらも、冷静に左手の剣を横に振る。


 斬撃がスリザヴァインの顔面をとらえ、怯ませたその隙に追い打ちの一閃。


 魔物は呻き声を上げると、そのまま塵と化して消えていった。


 だが直後――

「ッ……ぐ、ッ!」


 カイルの顔が歪む。

 腕に浮かび上がる紫の痣。

 ――毒に侵されていた。


「大丈夫!?カイル!早くこれ使って!」


 ミリアが慌ててバッグから取り出したのは、毒消しの“ミスティア草”。

 すり潰したものを傷口に塗ると、じわじわと毒が消えていく。


「……助かった。ありがとう、ミリア」


「もう!こんな無茶しないでよ!!」


「でも……これで、確信した」


 そのまま、カイルは再び集中する。

 深く、深く、スキルツリーの中へと意識を沈めていく。

 無限の印――その中心から、新たに広がる紫の光を放つ円が、ゆっくりと輝き始めた。


 浮かび上がった名は――

 《毒撃(ポイズン・バイト)》。


 毒を扱う者のスキルであり、特にスリザヴァインが使っていた噛みつきの毒性を再現できるという。


 しかし、カイルはそこで終わらなかった。

(待てよ……もし、模写したスキルを“融合”できるなら?)


 カイルの頭に、ある構想が浮かんだ。


 「コピー・クロー」+「毒撃」

 あの赤い爪に、毒の性質を宿すことができれば――


(……いける)


 再びスキルツリーの中で、カイルは両スキルの“枝”を掴むように意識する。


 すると、二つの光が徐々に接近し――

 爪の円の中心に、紫の帯が走った。


 融合スキル名:《毒爪ポイズン・クロー)


 現世に意識を戻したカイルは、息を整えながら静かに手を開いた。

 ――バチッ。


 次の瞬間、カイルの右腕が変化し、再び獣のような爪へと姿を変える。


 だが今回は、その爪の表面に、毒々しい紫の紋様が浮かんでいた。


「……え? な、なに、それ……カイルの……手?」

ミリアの声が震える。まるで現実が一瞬、理解できなくなったかのように。

目の前にいるのは、確かにカイルだ。けれど、その腕はまるで“異質な何か”のもののように見えた。


「待て……スキルを……模写した上に、混ぜた……? それ、お前……マジか……そんなの……聞いたことも……」


二人の顔には、“恐れ”でも“畏れ”でもない、混乱という名の沈黙が貼りついていた。カイルは、ただ静かにうなずいた。


「模写するだけじゃ足りなかった。俺は、もっと進める。進化させる……俺のスキルは、そういう力なんだ」

それはもはや常識の外にある発言だった。だが、その瞳に嘘はなかった。


 無限の印に導かれた者の力。


 他人の力を、喰らい、飲み込み、自分の一部に変えていく――

 それこそが、“カイル・アルグレイヴ”という冒険者のスキルツリーだった。

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