第3話

 リリオの森、午後の陽光が木々の隙間から差し込む中、三人の冒険者候補生は修練を重ねていた。

 剣、斧、杖。三つの武器が空を裂き、木々の葉が舞う。


 カイルが構えるのは父の剣、エクリュ・リベルタス。

 その刃は、いまだ力を見せず静かにカイルの手の中にあった。


「――来た!」


 ジーンの声に、カイルとミリアが同時に振り返る。


 現れたのは、灰色の毛並みをした獣――《フェングル》。

 狼に似た姿をしており、普段は一体で行動する低ランクモンスター。

 だが油断すれば、鋭い牙と爪で致命傷を負わせる危険な存在だ。


「ジーン、正面から! ミリア、後方支援頼む!」


「了解ッ!」


「回復準備するね!」


 カイルは素早く踏み込み、斬撃を放つ。

 剣の切っ先がフェングルの肩に届く――が。


「……ッ!」


 次の瞬間、フェングルの爪が真紅に染まり、鋭さを増した。


「“爪強化レッドクロー”……!?あいつ、固有スキル持ちか!」


 咄嗟に振るったカイルの剣と、赤く光る爪がぶつかる。

 鋭利な爪が刃を滑り抜け、カイルの右腕を深く切り裂いた。


「がっ……!」


 血が飛び散る。腕に灼けつくような痛み。

 すぐに剣で距離をとったが、フェングルは獲物の血の匂いを嗅ぎつけ、再度飛びかかってくる!


「カイルッ!!」


 ジーンが割って入るように斧を振るう――が、フェングルは軽やかに回避。

 そして、振り返りざまに、今度はカイルの腹を狙って爪を振り下ろそうとする。


 その瞬間――


 カイルの腕が、フェングルと同じような形状へと変わった。


 鋭い獣の爪。だが、それはカイル自身の手だ。

 無意識に、カイルはそれを振るっていた。


 “ドンッ!”


 直撃を受けたフェングルが、呻き声を上げて怯んだ。


「今だ、ジーン!!」


「おらああああッッ!!」


 ジーンの斧が、隙を突いてフェングルの胴を断ち斬る。


 次の瞬間、フェングルの体は黒い塵となって霧散した。


 静寂。微かに風が吹き抜ける音だけが響く。


「カイル、傷、大丈夫!?」


「う、うん……でも、さっき、俺の手が――」


 ミリアがすぐに回復魔法を唱える。


「《ヒール・リーフ》!」


 杖から淡い緑の光が放たれ、カイルの傷口が徐々にふさがっていく。

 完全ではないが、出血は止まり、痛みも軽減した。


 三人は静かにその場に腰を下ろした。

 そして、さっきの“変化”について語り合う。


「カイル……お前、フェングルのスキルを……真似したのか?」


「わからない。……でも、あの瞬間、あいつの動きが頭の中に流れ込んできた。

 “これならできる”って、直感的に……。」


 ジーンもミリアも黙り込んだ。


「もしかして、それって……」


 カイルは立ち上がり、真剣な目をして言った。


「……二人も、自分のスキルツリーに入ってみてくれ。今、見てみたい」


 三人は再び目を閉じる。


 静寂。無の境地。

 その先で、それぞれの“樹”が姿を現す。


 ジーンのスキルツリーは剛力の枝が伸び、斧のスキルが並んでいる。

 ミリアは癒しの葉脈が光り、回復・補助魔法の円が花のように広がっていた。


 そして、カイル――


 再び、あの中心に浮かぶ無限の印。

 そこから一つだけ、分岐するように円が現れた。


 その円は、赤く、熱く、震えるように光り始めた。


「……光った」


 その瞬間、カイルの中に《模写の爪(コピー・クロー)》という名前が響いた。


 中心から無限に枝を生み出せるスキルツリー。

 その第一の枝が、いま、カイルの中に芽吹いた。

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