第4話 激闘! ヌレヌレタイムバトルッッ!!!!

 なんやかんやあって冷凍食品で腹を満たした俺は部屋へ引き上げていた。 

 傍らではVTuber親父が配信をやっている。視聴者30万人らしい。

 ならば俺もとヴーチューブにログインしたが、罵倒のコメントだけが毎分数十件書き込まれ続けていた。

 

『靴下もちゃんと履けない奴が配信するな!』

『ドアが喋るとかステーキが喋るとか、頭おかしいんか』

『こいつ、パトカーに乗ってたけど、遂にやらかした?』

『近所のインコに"俺のアソコみてええ”って覚えさせたらしい』

『悪質過ぎる。スーパーでレジに通す前のバナナ耳に入れたらしい』

『看板破壊したってよ』


 おいおい。

 どうなってんだ? 天草姉妹に拉致されてからのことは配信していないはずなのに、なんでこいつらが知ってるんだ?

「おお、投げ銭ありがとうな! ワシとお前らで作る夢の為に活用させてもらうぞ! ワシはAIだから食費は掛からんし、税金も取られんからな! 安心せい!」


 アンチコメントのことは、まあいっか。

 それにしても懐かしいなあ。こういう空気。親父が真面目に仕事して、俺はゆっくりしている。子供の頃を思いだ……いや、大人になってからも脛を齧り続けてたわ。

 でもこれで安泰だな。社長にもなったし、親父も金を稼いでくれてる。

 よし、ニタニタ動画でエッチな動画でも見るか!

 一念発起してサイトを開く。

 だが、俺のスマホに映ったものは、ニタニタ動画ではなく求人サイトだった!

「ぎゃあ! 目が潰れる! べ、別のサイトに避難……ちくしょう! こっちも求人サイトだ!? どうなってやがる!」

 いきなりドアが開き、天草姉妹が部屋に入ってきた。

 

「土輔! 大変だわ! ハッカーの仕業よ!」

「は、ハッカーだと!? 俺のスマホをハッキングして求人サイト見せてるのかよ! 悪質過ぎんだろ!」

「お、お姉ちゃん! 私のSNSアカウントも乗っ取られてるよ~! 『41歳から始めるトイレトレーニング』ってなに!? 怖いよ~!!」

「おい馬鹿息子! どうやらホテル全体が乗っ取られているようじゃ!」

「親父! 配信はもう良いのか!?」

「馬鹿たれ! それどころじゃないだろ! おいハッカー、居るんだろ! 出てこんかい!」

「出てこんかい!」と、天草姉妹がそれぞれ続けて声を張った。

 馬鹿かよ、こいつら!

 こっちのネット機器を完全に掌握しているのに、わざわざ出てくる理由がないだろ!

 

「ふふふ、私は現役JKの天才ハッカー……ミッチーと呼んでくれて構わないよ」

 出て来たよ! しかも片手でノートパソコンのキーボードカチャカチャしてるけど、絶対に意味のある入力じゃねえだろ!

「おい土輔、私がわざわざ出て来たのは絶対に勝てるという確信があるからだ。これでも食らえ!」

 突然、ホテル内のありとあらゆる機械から、求人サイトのCMが大音量で鳴り始めた。風呂のリモコンからも鳴ってる! お風呂が沸きましたとだけ言ってろよ! 仕事バイト探しとか歌ってんじゃねえよ! やめろやめろ! 加湿器まで自分らしく働こうとか言い始めてやがる! 喋るのはステーキだけで十分なんだよ!

 

「ぎゃああああ!! やめろやめろ! 俺は……俺は!!」

「くっ……バナナがあれば良かったのだけど、生憎今は魚肉ソーセージしか持ってないわ……! 耳に詰めると魚臭くなってしまう以上、これで耳を塞ぐのは無理よ」

「どうする! 社長の鼓膜破る? 破るの? ねえねえ!?」

「おいしっかりせえ! 馬鹿息子! 天草妹がアイスピックを用意し始めたぞ!」

「万事休すか……。こうなったら……もうこれしかないわ! ミッチー! あなたに勝負を挑むわ!」


「ほう、私に勝負を挑もうとは……」

「勝負の内容は、ヌレヌレタイムバトル! 先に照れた方が負けよ! 先行は私! ねえ、ヌレヌレタイムって知ってる?」

「へ? え、あ、ああ、うん。ヌレヌレタイムな? そっちこそ、ヌレヌレタイムって知ってる?」

「今、ヌレヌレタイムよ。ところで、ねえ、ヌレヌレタイムって知ってる?」

「もちもち。こっちもヌレヌレタイム……それより、ヌレヌレタイムって知ってる?」

「……ヌレヌレタイムって何? 何が言いたいの、さっきから。ヌレヌレタイム、ヌレヌレタイムって馬鹿じゃない? このCM流してるのがヌレヌレタイムなの? それとも貴女の名前がヌレヌレタイムなの? ねえ、ヌレヌレタイムって何?」

「え、ええ……? そっちが言い出したんじゃないか!」

「どっちが言い出したかは関係ないでしょ。そもそも知ってるって答えたのは貴女でしょう?」

「ぐ、それは……」

「さあ……選びなさい。このままヌレヌレタイムについて追求を受け続けるか、今すぐこのCMを止めるか」

「ぐぬぬ……仕方ない」


 天草妹がアイスピックを俺の耳目掛けて振り下ろす寸前、ホテル中に響いていたCMが一斉に止まった。

「た、助かった……」

「私はミッチー。ゼロデス・ユメナインヤー社に雇われていたハッカーだけど、特に理由もなく寝返ったのでこれからよろしくね」

「ねえお姉ちゃん、ミッチーが本当に仲間になったのかどうか、全身に熱々のカップ焼きソバぶちまけて確かめなくて良いの?」

「いえ、信じるわ。ヌレヌレタイムバトルをして分かったもの。ミッチーがどういう女性なのか、ね」

 硬い握手を交わす二人。なんやこれいったい。

 

「大丈夫か馬鹿息子! ワシの名前を言ってみい!」

「ニョ、ニョウドウアイだっけ?」

「名東じゃ! 馬鹿たれ! いや、ハッキング攻撃の後遺症なのか?」

「大丈夫だ、親父。あの程度で俺があの日立てた『不労の誓い』は揺るがん!」

「誇るな! 馬鹿息子! その小さい脳みそにワシの名を刻め! 名東アイじゃ!! 馬鹿たれ!」

「「「えっ、名東アイってあの!?」」」

 そんな、あの皆さんご存知みたいな扱いなのかよ、親父! 成り上がるのが早すぎるだろ! って言うかミッチーはともかく、天草姉妹はずっと一緒にいるだろ! 馬鹿たれ!

 

 次回予告!

 ミッチーという新たな仲間が加わり、更なる戦いの幕が開いたり閉じたりする予感がする……!

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