第3話 クソデカ看板・サイバードラゴン

「ここはどこじゃ、馬鹿息子! 看板に『この先40キロ先右折、ジャコス』とか書いてあるぞ!」

「知るかよ! カッターナイフ女子から逃げるのに夢中だったから!」

「分かったわ、天草財閥傘下のすっげー立派なホテルに逃げ込みましょう」

「オッケー! こんなこともあろうかとパトカーは奪っておいたから!」


 財閥の力って凄いんだな!

 そんなことを思いながら、ホテルまでブブンとパトカーを走らせた。ブレーキに足が届かない天草妹が。奇跡的に被害者0人! やっぱ財閥ってすっげぇな!

 ホテル「おみじめ」に辿り着いた俺達は、まずは飯を食おうとホテル内のレストランへ向かった。

「シェフ! シェフを呼びなさい!」

 天草姉が声を張り上げる中、俺は机の上でVTuberらしく踊っている手の平親父に訊ねた。


「なあ、なんでVTuberなんかになったんだ? もっとこう、あるだろ。目玉になるとかさあ」

「馬鹿たれ! あっちの息子さんと違ってお前には可愛げがないじゃろ! そもそもワシは馬鹿息子の為にAI兼VTuberになった訳じゃない!」

「じゃあ何でだよ」

「VTuberとして成り上がる為に決まっておるだろ! 名前も決めてある『名東アイ』じゃ!」

「ニョウドウアイ?」

「ミョウドウアイじゃ馬鹿たれ!!」


 そんなことを話している間に、ビュッフェに並ぶ豪華な料理が全て下げられ、大量の冷凍食品が運び込まれて来た。から揚げ、チャーハン、磯部揚げ、餃子にイモ餅、コーンバターにブロッコリー。全部冷凍食品だ。天草姉が指示したらしい。

「何でだよ! 俺にも一流シェフのステーキとか、そういう美味い飯を食わせやがれ!」

「黙れ土輔!! 私はお前のガチ恋令嬢よ!!」

「意味がわかんねーよ!」

「おーい、社長~! 愛情たっぷり手作り冷凍パスタだよ~! ホカホカだよ~!」

 とか何とか言って、湯気を立てまくってるパスタの山を、ショベルカーで持ち上げて俺に浴びせて来る天草妹。あっちい! しかもこれぺペロンチーノだ! ニンニクくせえ! つか、熱々パスタでやる滝行は愛情たっぷりでも、手作りでもなんでもねーよ!

「いい加減にしろよ、てめーら!! 何の真似だ!」


「静かにしなさい土輔! ……来たわよ!」

「何が……って、うわあああ!!」

 ホテル「おみじめ」の壁をぶち破って現れたのは、巨大な看板を背負った機械の体を持つ竜だった。

「あ、あれは……! ゼロデス・ユメナインヤー社の秘密兵器……!」

「知っているのか、親父!」

「うむ! あれは、クソデカ看板・サイバードラゴン!」

「冷凍食品を大量に消費していたのはこの為! 奴らは冷凍食品を頼りに土輔を探しているのよ!」

「さすがお姉ちゃん! 天才的な作戦だよ! 私の心のポイントカードにポイント追加! 512810ポイントだよ!」

「果たして本当にそうかな?」

「しゃ、喋ったぞ!」

 背中に巨大な看板を背負ったサイバードラゴン。看板には『ビッグ・ワーカー』と書かれている。

「……そうか! 不味いぞ! あの看板にはスピーカーが内臓されておる! 耳を塞げ! 馬鹿息子!」

 親父の忠告は、少しばかり遅かった。

 クソデカ看板から大音量が流れ始める。

「就職就職就職就職就職労働労働労働労働労働……!」

「うるさーい!」と天草姉妹。

「しっかりせえ! 馬鹿息子!」と親父。

 俺は「ぎゃあああああ」と叫んでいた。床をのた打ち回り、土の字みてえな体勢で失禁し、セミのように仰向けで倒れてしまう。

「そんな……! ただ働けと言ってるだけなのに……!」

「お姉ちゃん、こいつひょっとしてヤバイんじゃね?」

 てめえに言われたかねえよ、天草妹。

 

「就職就職就職就職就職労働労働労働労働労働……!」

「ぎゃあああああ!! ぐががが……あっ、あ、あ、"み、みじ……”」

「いかん! その言葉を呟くと、馬鹿息子は糞を漏らして廃人になってしまうんじゃ! 黙らセロリ!」

「任せて!」

 そう言って天草妹が俺の顔面に座り込む。ちょっと良い匂いがした。この少年漫画的なサービス、本当に必要だったか?

 VTuber親父が萌え声で叫ぶ。

「でかした! しかし、このままではジリ貧じゃ! あの音声をどうにかせんと!」

「任せなさい!」

 天草姉が懐から生暖かくなったバナナ2本も取り出した。2本も!?

「これで耳を塞ぐわ! 土輔、男の子なんだからちょっとぐらい我慢するのよ!」

 ぶすりっ! ぶすりっ!

 左右の耳にバナナを突っ込まれる俺。更にバナナを固定する為のヘッドギアを装着させられる。ちょっと格好良いかも知れんわ。鏡見る余裕がないのが残念だ。

 

「おお! それは伝説のバナナヘッドギア! これで勝てるぞ!」

 親父が何かを言っているが全く聞こえないぜ!

 俺は天草姉から黒タイツを脱がせ、中に瓦礫を詰めて振り回す。

「いっけえええ!!」

 ハンマー投げの要領で瓦礫を投げ飛ばし、クソデカ看板を破壊する。

 サイバードラゴンは散り際に、耳が聞こえなくなっている俺にも理解できるよう、空中に文字を投影して、ゼロデス・ユメナインヤー社の意思を示した。

「家に嫌がらせの葉書を送り続けてやる」

 なんでだよ! あれお前らだったのかよ! やめろよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る