第2話 とある料理研究家のエビフライバズーカ砲
「「「「キャケロビャ!!」」」」
墜落したパトカーの中で、俺達は揃って悲鳴をあげた。まるで親父に拳骨食らったみたいな痛みだ。
ちくしょう、ついてないぜ! 俺の人生って地面に落ちた冷凍食品の肉まんよりも惨めかも知れんわ。
「誰かいるー?」と、天草姉。
「誰かいるー?」と、天草妹。
「誰かおらんかー?」と、親父。
「いるわけねえだろ! ここ崖下だぞ! 崖の下!」
「そうね。じゃあ弁護士を呼びましょう」
数秒後、弁護士風の弁護士がうどんを啜りながら現れた。
「森嶋です。好きなものはうどん。得意なことは綺麗にうどんを食べること。出身は……」
「しゅ、出身は……?」
答えは分かりきってるのにワクワクが止まらねえ! もう期待で心臓がはち切れそうだ! 早く、早く言ってくれ!
「出身は、岡山です」
森嶋以外の全員が一斉に叫んだ。
「香川じゃねーのかよ!!!!」
崖下に怒号が響き、森嶋はうどんに溺れ掛けた。
最近の弁護士はレスキュー隊も兼ねているらしい。すっげー。
森嶋に助けられた俺達は、天草財閥の本拠地、天草ビルを訪れていた。
「ここが……財閥の……財閥の……。財閥の一番偉い人の部屋か」
財閥の一番偉い人がなんて呼ばれてるのかなんて知らないから、ちくしょう!
「おい馬鹿息子! この扉にはオリジナルセキュリティが掛けられているぞ!」
「分かるのか! 親父!」
「ああ。ワシはVTuberであると同時にAIだからな。ハッキングも余裕じゃ」
「だったら開けてくれよ!」
「土輔の馬鹿!!!!」
天草姉にピンタされ、俺は吹っ飛んだ。貧弱過ぎないか、俺。
「最後の扉は絶対に自分の手で開けるって約束したじゃない! 馬鹿!!」
天草妹が俺に馬乗りになってバッコボコに殴って来る。凶暴過ぎないか、こいつ。
そもそもそんな約束してねえだろ! だいたいどうやって開けるんだよ、オリジナルセキュリティってなんだよ!
誰かなんとかしやがれ!
俺が天草妹の暴力でくたばり掛けていると、急に股間が光り始めた。
そうか……! そういうことだったのか!
俺はよろよろと立ち上がり、ドアに俺の俺を押し付けた。
その瞬間、ドアが喋った。
「ういいいいいっすう! どーもぉ、一成でーす!」
いや違う録音だわコレ。いや、録音なんかな? 違うかも知れんわ。断言すんのは止めとくわ。って言うか、娘相手にこのテンションかよ。
「無事に後継者を見つけたようだな、娘達よ。お前達がこれを聞いている時、私は既にスウェーデンでアズゴリ(喋るステーキ)と一緒に幸せな第二の人生を始めているだろう。とにかく良くやった! 後継者よ、後は任せた!」
どうでもいいけど、喋るステーキについて、いい加減誰か説明しやがれ!
「ほら、土輔、座れ。お前は今日から社長だよ」
天草姉は何でこんなに偉そうなの? っていうか財閥の一番偉い人って社長なの?
良く分からないまま豪華な椅子に座る。
「おほぉ~! この椅子の座り心地、最高だで! これなら何年でも飽きずにニートしてられそう!」
「おめでとう! 社長!」
天草妹がバズーカ砲を手にしていた。なんで?
「おい馬鹿息子! あれはただのバズーカ砲じゃないぞ! 冷凍食品のエビフライをセットすることで調理すると同時に発射する、エビフライバズーカ砲だ!」
「名前そのままじゃん! 親父ぃ!」
「お祝いにぃ……どぉ~ん!!!!」
天草妹が無邪気に笑って、引き金を引いた。
どぴゅん。
熱々のエビフライが俺の口に突き刺さる。すっげー勢いだ。顎が外れるかと思ったし、顔は実際に曲がっちまった。でも、美味しいけど美味しい。
エビフライをもぐもぐしていると、ビル全体に警報が鳴り響いた。
「おい馬鹿息子! カッターナイフで武装したテロリスト女子10人ぐらいがビルに入って来たぞ!」
「カッターナイフを持った女子の集団なんて、図工の時間にしか見たことねえよ!」
「安心しなさい! 土輔! こんなこともあろうかとランチパックを10人分用意してあるわ! これを餌にして脱出するのよ!」
「そんなもん餌になる訳ないだろ! 馬鹿姉妹!」
でも上手くいったので、俺達は無事に脱出したんだよね。みんなランチパック好きだったみたい。女子はやっぱみんな、パンが好きなんだな。うん。
けど、これでいいのか?
俺は社長になったけど、不安で仕方ない。明日には喋るステーキが口に飛び込んで来るかも知れないし、忍者に討たれるかも知れないし、カッターナイフ女子が俺に惚れるかも知れない。
でもたぶん、これから本当の戦いが幕を開ける、そんな気がする――。
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