ぶぶっと一発業人姉妹
@zunpe
第1話 お父さんはVTuber
俺は
人生詰んだ。そう思いながらも、生きるために配信を始めた。だって働きたくないし。いや、働きたくないとかそういうレベルじゃなくて、働こうとすると全身に蕁麻疹が出る体質なんだ。あと、年下の上司とかが居るとくしゃみが止まらなくなるアレルギーだってある。医者には「それは単なる甘えです」って言われたけど。
そんな俺のヴーチューブチャンネル、ブリジョボプレイは炎上どころか、もはや灰と化していた。
『ブリジョボプレイ? 何だよその、大小どっちも出てるみたいなチャンネル名』
『働け……働け……(KNZKSRU)』
『おい、靴下の左右が違うぞ。減点、939364点だ。もはや採点じゃねえ』
『餃子焼くのヘタすぎて、生焼けの粘土じゃん』
『腐りかけのピーナッツ』
『ブリジョボプレイのブリって、土輔?』
『とにかく配信下手糞でびっくり』
謂れのないアンチコメントが並ぶ。いや、靴下と餃子については事実だから反論できない。
「ちくしょう! これから俺、どうやって生きていけばいいんだよ!」
八つ当たりで部屋の隅のオンボロPCを殴ると、PCは「痛ってぇ!」と叫んだ。
「え? PCが喋った? 嘘だろ、俺、疲れてんのかな、やっぱ」
もう一度殴ろうと拳を振り上げたら、PCは「いい加減にせんか! 馬鹿たれ!」と叫びながらガタガタ震え始めた。ひえっ。
その時、けたたましいサイレンが聞こえてきた。事件か? 配信者なんてやめて、名探偵として生きていくべきか? なんて馬鹿なことを考えていると、パトカーが俺ん家の前に止まった。
「……え、パトカーって、人の家の前に普通に止まるんだっけ?」
そう思っていると、玄関が「キャベロ!」みたいな音を立てて開いた。
「奪ったパトカーを乗り回して助けに来たわよ!」
「私達は天草財閥の社長令嬢姉妹! 人呼んで、業人姉妹!」
「ご、ごうにん? いや、誰だよお前ら!」
「うるせえ! とにかく付いて来いやあ!」
こうして俺は、業人姉妹を名乗る二人に拉致され、パトカーに押し込まれた。天草妹が俺の腕に抱きついてきて、おっぱいで動けなくなっている間に姉妹の目的を聞かされた。
「なんだって!? それは本当なのか!?」
「ええ。私たちの父、一成は喋るステーキと駆け落ちしたのよ。ステーキにアズゴリと名前を付けてね。だから後継者を探していたの。そんな時にちょうどアナタのゴミみたいな配信が目に留まったから」
「駆け落ちなんて素敵〜。『私、ステーキ。一番上質な』その一言で、お父さんったら恋に落ちちゃったみたいよ」
意味がわからねえ。喋るステーキって何だよ。でも、財閥の後継者になれば、働かなくて済む……!
俺はホクホク顔で「にしし」と笑った。
その時、スマホが震えた。またアンチコメントの通知か? そう思って取り出したスマホの画面を見て、俺は鼻水を噴き出した。
画面には、白い服の女が井戸から這い上がって来る様子が映っていた。呪いの映像だコレ。
「うわあ……井戸じゃん。這い上がってくる奴じゃん。画面から出てきて殺されちゃう奴じゃん。やばいやばい!」
天草妹が叫ぶ。
「これマジ? マジで呪いのビデオ? あ、出て来た」
「ん? なんか違くね? 貞子ってこんなバーチャルヴーチューバー(略してVTuber)みたいな見た目してたっけ?」
「いや、でもこっちに向かって来てる!」
「いやあっ! 呪われる! 呪われる!」
「なんで楽しそうなんだよ! 天草姉ぇ!! つかマジかよ!」
確かに、井戸から這い上がってきたカラフルな衣装の美少女がこちらに向かってきている。貞子かと思いきや、その姿は明らかにVTuberだった。
「ええ……マジかよお! 出てくるのかよ!」
「よっこらせっと」
そう言って出て来た美少女は、手の平サイズだった。
「おい馬鹿息子! それに馬鹿娘共! 三人で盛りあがっとるが、一体誰が運転しとるんじゃ!」
「こ、声はアニメ美少女って感じだけど、その喋り方は親父か!?」
俺が驚愕の声をあげる中、パトカーはガードレールを突き破って、崖下へと吹っ飛んでいくのだった。パトカーの中で、俺の股間には手の平サイズのVTuberと化した親父が乗っていた。地獄か? こんなことなら親父が生きてる間に作業所へ戻っておくべきだったな!
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